この行動圏とは、日常的に使う範囲のことであるが、里山のタヌキを長く追っていると3パターンあることがわかった。成獣ペアの行動圏は数年にわたり(どちらかがいなくなるまで)、位置は安定しており、サイズも夏の育児期に少し狭くなったり脂肪を蓄える秋に広くなったりすることはあっても、大きく変化することはない。これを安定型と呼ぼう。

 亜成獣は、親の行動圏から離れることがある。それを分散行動というが、タヌキは秋から冬にかけて分散することが多い。その時期から落ち着くまで広範囲を移動する。これを収束型と呼ぼう。

 また、配偶者を失ったかいない成獣オスは大きく移動することがあり、行動圏は広くなる。これは放浪型と呼ぼう。メスについては、配偶者がいなくなってもとどまるかもしれない。

 

農作物の味が里タヌキの依存性を高めうる

 この地域でも1990年代には、タヌキによる農作物被害がわずかながら発生していた。里タヌキが、あるトウモロコシ畑に隣接する藪に一週間ほど滞在し続け、トウモロコシの芯が畑と藪に落ちていた。

 それを知らせに行ったとき、その畑の持ち主は、私にもトウモロコシを分けてくださり、「まぁ、タヌキも食っていかなきゃね」と寛大だったのを覚えている。カラス対策なのか、ネットは張ってあった。

 また、町内のブドウのビニルハウスでは、内側の支柱とビニルにタヌキとわかる泥足跡がつき(左右の足を突っ張って登ったらしい)、1房ほどやられていたが、暖房設備のほうにも魅力があったようで、その上に休んだ形跡があった。

 今思えば、こうした被害は統計に表れないし、その時点でちゃんと防除できる術をもっと伝えられればよかった。楽して得られる食べものが、とくに育児期にあれば依存し、農作物の味、そして時期と場所を学んだ里タヌキは、世代にわたりますます依存性を高めうる。

タヌキは小さな離れ小島や大都会でも生きていける

 ただし、ここの里タヌキたちは、田畑では農作物よりそこに生息する生物をおもに食していたと考えられる。一方、山タヌキの卜伝たちは、田畑における滞在時間が短く通過するだけか、そもそも行動圏内に田畑が少なかった。河川敷に行くまでの通路だったのかもしれない。彼らにとって丘陵地と河川敷があれば、食べるにはこと足りるのであろう。

2022.09.16(金)
文=佐伯 緑