地方で頑張るシェフたちの“芽”に水をやりに行く気持ちで

「レストランは、料理だけでなくもっといろいろなことができる」というのが、小林シェフの持論。

「皿の上だけで勝負するというのは、ひと昔前の考え方。レストランは、食にまつわるすべてのこと――人々の健康や、農業、環境問題はもちろん、地域をどうデザインするかということにも関わっていけるし、そうした志を持ち、地方で頑張ろうとしているシェフは全国各地に少なからずいます」

 昔の小林シェフがそうだったように、若いころは都会的な料理を目指したくなるもの。でも、東京と同じような料理をするなら、地方でレストランを開く意味がないと小林シェフは言います。

「僕には一応、地方レストランとして20数年の経験から得たものがあるので、地方で頑張ろうとしているシェフたちの”芽”に、ちょっと水をやりに行きたい気持ちもあり、今回のようなイベントにも積極的に参加しています。素晴らしい素材は、今回のイベントで使った摘果りんごや、オカワカメ、雑穀、茄子の漬物のように、地方の”ありふれた”ものの中にある。レシピありきの料理ではなく、そうした素材をどう料理に落とし込んでいくか。発想のヒントになるような提案ができればいいと思う」

「野菜だけでこんなに奥行きがでるとは。小林さんの料理にはいつも感動する」

 今回のイベントでは、「山形座 瀧波」の原田シェフも大いに刺激を受けた様子。

「僕はもともと和食の料理人で、30歳を過ぎてからイタリアンに転向したのですが、そのころすでに小林シェフは有名人。地方レストランの可能性を示してくれる憧れの存在でした。もちろん「ヴィラ アイーダ」にもお邪魔しましたが、小林さんはやっぱり――こんな言い方は失礼かもしれませんが、ものすごく料理が上手(笑)。

 野菜の火入れにしても、食感や風味が複雑に重なり合う味わいにしても、よく野菜だけで、あれほどのバリエーション、奥行きが出るものだと感動するばかり。今回のイベントでも、自分にはない発想の数々に驚かされ、たくさんのヒントをいただきました」(原田シェフ)

 全国各地に出向くのは、もちろん小林シェフ自身のためでもあります。

「僕の料理に、スペシャリテは不要。昨日よりおいしい、新しい味を作っていきたいし、そのためには他者からのインプットが欠かせません。その土地ならではの素材、保存食の文化を吸収し、いろいろなシェフと仕事をしながら、日々、アップデートしていきたい。これからの時代に生き残るのは、変化に対応できる料理人だと思うから」

 そして、今日も小林シェフは、東へ西へ。イベントなどの情報はシェフのインスタグラムにときどき上がっているので、気になる人はぜひチェックしてみてください。

villa aida(ヴィラ アイーダ)

所在地 和歌山県岩出市川尻71-5
電話番号 非公開
営業時間 夏季12時30分~、冬季13時~
定休日 不定休
Instagram:@kanjikobayashi
http://villa-aida.jp


山形座 瀧波

所在地 山形県南陽市赤湯3005
電話番号 0238-43-6111
http://takinami.co.jp/

2022.09.18(日)
文=伊藤由起
写真=橋本篤