ツヴァイクの本に揺さぶられ

三浦 池田先生は24歳で『ベルばら』をお描きになったんだと気づいたとき本当に衝撃を受けました。

池田 私が大学に入ったのは学園闘争が盛んなころでしたから、運動にも参加しましたし、そういう思想にも感化されて、経済的にも自立したくて家出したり。

三浦 学生運動の経験が作品に影響を与えたところはありますか。革命に興味を持つようになったり、『ベルばら』を描く何かのきっかけになったとか。

池田 もともとは、高校時代に読んだシュテファン・ツヴァイクの伝記『マリー・アントワネット』にものすごく感銘を受けたことです。いつかマリー・アントワネットの生涯を何かの形で表現してみたいと。高校生のときには『ベルサイユのばら』というタイトルだけはもう決めていました。

三浦 そうだったんですか!

池田 1789年の7月14日、フランス革命の発端となったバスティーユ襲撃のときに権力側の軍隊でありながら、市民側に寝返ったのが「フランス衛兵隊」です。その衛兵隊を指揮した隊長がいまして、作中で活躍させたいと思ったんです。私はまだフランスに行ったこともなく、資料もほとんどなかったので、それを逆手に取って、隊長は女性に変えた方が自由に描けるなと考えました。

男性と対等に活躍し、人間的魅力に溢れたオスカルに憧れました─三浦

三浦 時代を先取りした、斬新な設定だったと思うんです。「女のくせに」とオスカルに突っ掛かってくる人物もいますが、性別とは関係のない“人間としての魅力”をフラットに認める人物も大勢出てきて、希望を抱けたというか。

池田 連載していた当時は絶対的な男性社会でした。どこにいってもセクハラがあり、原稿料も人気とかは関係なく、女性マンガ家は男性マンガ家の半分でした。

三浦 あまりにひどい話……。

池田 でしょう。それはおかしくないですかと編集長に聞いたら、「家族を養う男が高いのは当たり前ですよ」みたいな顔をされまして。そういう時代だったとはいえ、女性が軽く扱われるのも、これは女のもの、あれは男のものと分けられるのも悔しくて。オスカルが馬に乗り、剣を使い、自由にふるまう姿を描くのが、ストレス解消になっていた部分はあります。

三浦 読者にとってもそうです。オスカルが〈女 女とさわいでいるが、(略)実力でわたしにかなう者がいるか!?〉というシーンは、すごくスカッとしました。

池田 オスカルが言ってることはほとんど、最後の最後まで私自身の信念の言葉だなあと思うんです。私が言いたいことを代わって言わせる、そういうツールとしても彼女は活躍してくれましたね。

2022.09.07(水)
Text=Asako Miura

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