『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』など数々の話題作ドラマを生みだした脚本家・向田邦子。亡くなって41年がたつ今も、その作品や生き方は、多くの人を魅了しつづけている。
1979年にNHKでドラマ化され、鮮烈な印象を残した代表作『阿修羅のごとく』は、その後も映画や舞台となった名作だが、このたびモチロンプロデュースにより、向田邦子のセリフはほぼそのままにシーンと登場人物を大幅にカットし、‟四姉妹のバトル”に焦点を当てた全く新しい舞台として上演されることが決定。
年老いた父に愛人がいた⁉ 急遽集まり、対策に追われる4人の娘たちだが、自身もそれぞれ悩みを抱えている。奔放に生きる未亡人の長女は不倫中、堅実な主婦の次女は夫の浮気を疑い、独身の三女は女らしさを秘めつつ不器用に生きる。家族に隠しながら、ボクサーの卵と付き合う四女――――四姉妹の揺れる心や家族の在り方を、繊細に力強く描いた不朽の名作。
今回の舞台で、三女・滝子を演じる安藤玉恵さんに、お話をうかがった。
とにかく刺激的。稽古が楽しい!
――『阿修羅のごとく』は言わずと知れた向田邦子さんの代表作ですが、オファーがきたときの率直なお気持ちを教えてください。
それはもう、嬉しかったです! 木野花さんが演出をする舞台に出てみたい、とずっと思っていましたし、他のキャストの方たちもとても豪華です。「滝子役で」とお話をいただいたときは、「この中に入れるのー⁉」という気持ちでした。
向田邦子作品は好きで色々と読んでいましたが、舞台版の『阿修羅のごとく』は見たことがなくて。いま出版されているのは映像の「シナリオ」なので、舞台だとどういう風になるんだろう? と、とにかく楽しみです。
――実際に脚本を読まれたときは、どのように感じられましたか。
私は女きょうだいがいないので……姉妹ってこんな⁉ 女同士ってすごいな……と、まずびっくりしました。みんなそれぞれ、淡々と生きてはいるんですけれど。
長女・綱子役の小泉今日子さんとは以前に共演をしていますが、他の全員……次女・巻子役の小林聡美さん、四女・咲子役の夏帆さん、岩井秀人さん、山崎一さんとは今回が初めてなんです。
個人的には、この舞台用に倉持裕さんが書かれたおもしろい脚本を木野さんがどう立ち上げて、どういう稽古をしていくんだろう、ということを、単純に楽しみにしていました。
――いま稽古の真っ最中ですが、どのような毎日なんですか。
木野さんは俳優指導もされてきたので、これまで経験してこなかったことを、体験できる……実際、その期待通りでした。自分の出番がないシーンで他の俳優さんの稽古を見ていて、ある時急に芝居が変わることがあるんです。いったい演出家がどういう言葉がけをするとこんなに変わるんだろう、すごいなあと思って、気になったことをノートにつけたりしています。稽古をすごく、楽しんでいますね。
今までの自分を超える格言や名言みたいなものが、木野さんからバンバン出てくる。自分自身も、他の俳優さんたちも、そこから起きる“変化”が面白い。
――こういう芝居をしようとは決めずに現場に入る、と以前におっしゃっています。
そうですね。こうと決めていかないようにしているので、フレキシブルに、いろいろなことへの挑戦を楽しんでいると思います。
木野さんからは、自分のなかから更に引き出されるものもあれば、逆に余計だったものが引かれていったりする。あ、これいらなかったんだ……と。引き算なんです。曖昧な動作をしたりすると、「その意味はなに?」とすかさず聞かれる。
きっと、俳優側の身体的な感覚を本当に理解してくださっているから、アドバイスがぴたっとくるんでしょうね。迷いがない、というか。
2022.09.01(木)
文=文春文庫部