「それぞれの推し」を見つける時代
今はドラマ然り、グループアイドル然り、団体で魅せるエンタメで“センター”という定義が流動的になっている。一番星ではなく天の川。視聴者は一つのストーリーに一人ではなく「それぞれの推し(主人公)」を見つける時代だ。『キングダム』も物語こそトップ争いだが、歴史に残る英雄だけではなく、名もなき英雄、両方の視点から歴史を作る様が描かれ、胸が熱くなる見せ場がある。私は尾兄弟に感情移入したけれど、渋川清彦が演じた愚直に使命を全うする縛虎申役もヒーロー。『カメラを止めるな!』の濱津隆之が持ち味を活かし好演した、名管理職的な辣腕を見せる澤圭だってヒーローだ。
知名度はトップスターほどではないが、その個性と顔はじゅうぶん知られている実力派たちが、一つの時代を動かす「主役の一人」を演じる。そして作品の中でギラギラと輝き、私たち視聴者の共感を深くしてくれる。群像劇、という一言ではまとまらない、「横幅と奥行き」。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」もそうだが、近年のヒット作には、そんな共通点を感じる。
岡山天音の持つ、バイプレイヤーと主演、両方自在に振り切れる柔らかさは、そんな時代にぴったりと沿っている気がするし、実際、ここ数年の活躍は目覚ましい。9月も出演作が公開ラッシュだ。
『さかなのこ』、『百花』、『あの娘は知らない』。そして『キングダム2』の開場を待つ間、ロビーで予告編を見ていたのだが、映画『沈黙のパレード』(9月16日公開予定)の予告にも岡山天音が出ていて「オオッ」と小さく声を上げてしまった。
そして『キングダム3』が2023年公開予定であることも明らかになった。来年にはまた尾平に乗っかり、信に憧れ、ヒヤヒヤしつつ旅に同行できそうだ。あのむせかえるような砂埃とともに!
2022.08.16(火)
文=田中 稲