どう考えても負ける。そんな予感に怯えて吐き、ボロボロの槍を振り回して泣く彼の姿に、戦乱の恐怖感が身に迫りゾッとするのだ。
いつのまにか気持ちは尾平と一緒に走り、ジタバタし、疲れ、諦め……。英雄の活躍に心震えた第1作より、戦場が近くに感じる。将軍や信、羌カイ（きょうかい）といった超人たちのターンも素晴らしいが、特別な体力も技も持たない普通の人たちが、がむしゃらに命を懸ける姿に泣けた！
岡山天音はなぜこんなに気になるのか
しかし岡山天音はなぜこんなに気になるのか。一番の魅力は少し座った目だろう。以前、バラエティ番組で「普通にしているのに、スタッフさんから起きてくださいと言われた」というエピソードを語っていたが、それがいい。「起きているようで眠っているようでやっぱり起きている。起きながら夢で見た世界がまだ見えている」といった複雑な感じが、ものすごい色気になっているのである。沸々煮えたぎっているけれど、それが何か分からないし、いつ爆発させてくるのか分からない“読めなさ”が想像をかきたてる！
おかげで2021年のドラマ「最愛」では、味方なのか犯人なのか彼にすっかり攪乱されたし、2019年「同期のサクラ」の蓮太郎は、覚醒した彼がどう成長し、どう社会に馴染んでいくのか、目が離せなくなっていった。天音が出たら物語が動く！
もし火曜サスペンス劇場が令和も続いていたならば、必ず容疑者の一人として登場し、事件が起こる深い事情をその存在感で魅せてくれたはず。ああ、岡山天音演じる「限りなく犯人に見えて実は犯人をかばっている」的な役が観たかった。「聖母たちのララバイ」をバックに真実を語る彼がありありと想像できる。火曜サスペンス劇場は残念ながら2005年に終了。岡山天音は2009年デビュー……。どう考えても叶わぬ夢だった。
とにもかくにも、かっつん、蓮太郎、そして尾平にしても、彼が演じると、役のその後の人生が観たくなる。まだ見届けなければいけない“それから”があるように思わせる、不思議な閉じ感は唯一無二。サスペンス劇場で観たくなるのもそのせいだ。
2022.08.16(火)
文＝田中 稲
