週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。

 旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。今回訪れたのは、神奈川県・箱根強羅温泉にある「強羅花扇 円かの杜」。

 東京から車で約1時間30分。野鳥のさえずりを聴きながら、安らいだ空気の中で、とびきり贅沢な朝を迎えたい。


木と畳にこだわる創業社長の飽くなき情熱、“木材大好き”社長の銘木リゾートとは

 「強羅花扇 円かの杜」の最大の魅力は、贅沢に銘木が使われている点。ロビーや客室など至るところで杉や欅、檜などの存在感が際立つ。これら国内産の高級木材は現在、なかなか手に入りづらい建築材だ。

 「柱や梁に使われている黒く見える木材があるでしょう。あれは塗ったのではなくて、山形県と秋田県の県境にある鳥海(ちょうかい)山の麓から出土した埋没木なんです」と話すのは、女将の松坂美智子さん。

 火山噴火によって土中深くに埋もれた神代木は、2,600年もの間、空気に触れることなく土の中で眠っていたもの。泥や溶岩によって自然に焦げ茶色に染まったこの埋没木を宿の見せ柱や見せ梁に使うことで、雰囲気のある重厚な空間をつくりだしている。

 銘木蒐集は一朝一夕にはできない。この宿の木はすべて、美智子女将いわく「木材大好き」な会長・飯山和男さん(昭和15年生まれ、美智子さんのお父さま)が集めた国内の銘木。今から32年前、岐阜県・高山市にある「飛騨亭 花扇」オープン前から集め始めたもので、寺院などに使われる、硬く木目も美しいものばかりだ。

 姉妹館である、「飛騨亭 花扇」もこの黒っぽい柱で造り込んだという。世はバブルの空気が残る1992年。きらびやかなシャンデリアがもてはやされていた時代から「日本人は木と畳だ」「この渋さがいいんだ」という信念のもと、木のぬくもりにこだわり続けた。

 宿では和の空間に合わせて、女性は着物姿、男性は武者袴(夏季は作務衣や二部式の着物)といった和のスタイルで出迎えてくれる。

 客室は無垢の木材を多用し、壁は珪藻土で塗り込めて、自然素材のよさを実感できる空間づくりに徹している。太い見せ梁や一枚板のテーブル、和紙の照明器具などの設えも、とても居心地をよくしている。

 無機質になりがちな洗面スペースにまで無垢の木が使われているのもこだわりの一つだろう。シャンプーやヘアブラシなど、アメニティにもいいものを使っている。

 20室ある客室はすべて異なる造りで、全室露天風呂付き。部屋食の客室で予約すれば、室内まで夕食を運んでくれるので、「客室から一歩も出ないで、籠もって過ごしたい」と考える人にとっては非常にありがたい宿である。

 特徴的なのが、「快眠」にこだわったベッドスペースだ。寝室の壁は杉材、ベッドフレームは高熱で蒸し上げ、圧縮することで強度を高めた国産の杉材を使った飛騨産業のものを採用。杉材の芳香は眠りにいいそうだから、温泉+無垢材の効果でいつもよりも深い睡眠が得られることだろう。

2022.08.18(木)
文・撮影=野添ちかこ