東京で働く30歳の契約社員、菊池あみ子。特別美人でもなく、特技があるわけでもない彼女の日常は、普通で、ありふれている。それなのに、彼女が主人公の漫画『まじめな会社員』をめくる手が止められないのは、些細な出来事が起こるたびに、あみ子が自分の願望や悲しみ、諦観を恐ろしい程の精度で言語化していくから。共感しながらも、冷や汗が出るような心地になる人も多いだろう。本作はまさに、令和に生きる女性たちのための物語だ。

 著者の冬野梅子さんは、初めて投稿した作品で「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後モーニング月例賞の奨励賞受賞を経て、コミックDAYSで『まじめな会社員』の連載を開始した。連載は今年5月に完結を迎え、現在は単行本全4巻が発売中だ。

「読み切りで描いた『普通の人でいいのに!』に反響があったので、連載では、それと地続きの世界線で、もうちょっと共感してもらえるような主人公にして描いてみよう、という方向性で進めていきました。主人公のあみ子は、私の1カ月のうちに何日かある、なんでも悲観的に考えてしまうときのメンタルを人格化したような存在。あんまり良い子にはしないぞ、と決めて描いていました」

 ライター兼書店員の今村さんへの恋心、自由に生きる友人・綾ちゃんへの憧れ、そしてライター業への興味……。作中では、東京でよりよく生きようともがくあみ子が描かれるが、第5話で実家に帰省するシーンも印象的だ。都会と田舎との価値観の相違に気づき、あみ子は両親との断絶を再確認する。この回は終盤の展開にもつながっていく。

「どこに住んでも楽しそうにしている人たちって、社会の意見と自分の意見がおおかた一致しているんですよね。早くに結婚して、子どもを持って、二世帯住宅を建てる、みたいな。でも東京に出てくるような地方の人って、地元に自分が同意できるような価値観がなくて、そうするとどうしても、出ざるを得ない。そういう人は、創作物を心の拠り所にすることが多いと思うんですけど、小説や映画の舞台になるような世界で、一番近いのが東京なんです。文化があって、地元では出会えないような人と出会える場所。私自身もそれを求めて東北から東京に来たんだなって思います」

2022.07.24(日)
文=「週刊文春」編集部