これだからポリコレは、などということを言いたいわけでは全くないし、『N/A』はそんな卑近な小説でもない。ただ私たち皆が、言葉を扱うにはまだ未熟な存在なのだ。

 その場の「正しさ」を読むのはしんどい。その緊張関係は言葉の全てを態度の表明とし、私たちを「キャラクター」として縛っていく。けれども、目の前の誰かを助けるということについては『N/A』の誰もがためらいなく行っている。例えば生理の出血に対しては皆フットワーク軽くナプキンの貸し借りをし合う。文字通り生理現象を通して皆が無名の存在になっているかのようだ。何者でなくても繋がれるというのは、まどかたちにとってせめてもの気楽さかもしれない。

としもりあきら/1994年生まれ。法政大学卒。2022年、本作で第127回文學界新人賞を受賞してデビュー。選考会では6人の選考委員が満場一致で本作を推した。第167回芥川賞候補作。
 

おおまえあお/1992年、兵庫県生まれ。小説家。著書に『おもろい以外いらんねん』『きみだからさびしい』など。

2022.07.12(火)
文=大前 粟生