〈「1年ほど カウンセリングを受けました。何度も生きるのをやめたいと思いました。諺にあります。『王は王冠の重みに耐えねばならない』と。でも、耐えられなければどうなるのでしょう?

 この社会は、その重みを担えない人に無理やり王冠を被せていると感じます。それに押しひしがれた人は見捨てられる。正直言って、腹がたちます。その人たちを守るシステムがあるとは思えない」(同前)〉

 

「アイドルが商品なら、人権を放棄しなければならなくなる」

 2007年、KARAとワンダーガールズはほぼ同時期にデビューした。その半年後にデビューした少女時代を含めたこの3組は、より積極的に海外進出を進めていった。KARAと少女時代が日本で大ヒットしたのは周知のことだろう。

 彼女たちは、その過程でこうしたメンタルヘルスの問題に襲われていたのだった。周知のとおり、スンヨンとともに活動をしてきたク・ハラはすでにこの世からはいない。


 さらに次のエピソードでは、スンヨンとイェウンはやや語気を強めて、K-POPのシステムについて言及する。

〈「エージェント(芸能プロダクション)とトラブルがあったら、譲歩すべきときと戦うべきときを知らねばなりません。私たちはエージェントのおかげで有名になりますが、もし健康を損なったり不当な扱いを受けたりしたら、黙っていてはダメだと思います。必要なら戦わないと」(ハン・スンヨン/『K-Pop Evolution』シーズン 1:エピソード 6)〉

〈「アイドルは商品であるというのが大前提であれば、人間としての権利はすべて放棄しなければなりません。でも、話し合いによる問題解決の努力を続ければ、ひとびとの思考も変わるかも。アーティストにはもう少し自分を大事にし、声を上げてほしい」(イェウン/同)〉

 このドキュメンタリーからスンヨンとイェウンの言葉を長く引いてきたのは、それが今回RMによってなされた提言――K-POPのアイドルシステムへの疑義と大きく重なるからだ。イェウンの呼びかけに応じるかのように、RMは声をあげた。そして、現役のトップスターからこうした問題提起がなされたことには確実に大きな価値があった。

 もうひとつ加えれば、その背景には映画『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の姿も見え隠れするように思う。2019年に公開され、全編外国語の映画としてはじめてアカデミー作品賞を受賞した『パラサイト』は、1週間の撮影上限時間などが設けられた「標準労働契約」を遵守して撮影されたことをポン監督は明言した。

 90年代後半から急成長してきた韓国映画は、その高いクオリティで世界的に注目を浴びてきたものの、しばしば過酷な制作環境だと囁かれてきた。だが、2015年頃から「標準労働契約」が浸透し、2018年には77.8%の作品でこの契約が結ばれたという(ハンギョレ「ポン・ジュノ監督が述べた映画界の『標準労働契約』とは何か」2019年5月28日付)。

 加えてポン・ジュノ監督はハリウッドで2本映画を制作した経験も踏まえて『パラサイト』を制作し、その取り組みは最高の結果も導いた。

2022.07.05(火)
文=松谷創一郎