やっぱり外せない『POISON』

 男性アーティストの中では、事なかれ主義の大人たちへの怒りを歌詞に叩きつけた尾崎豊は代表格。聴くタイミングによっては、あらゆる不条理が目につき怒りが倍増する諸刃の剣だが、心の奥に押しこんでいた情熱が目を覚ます。

 もう一つ、怒りと癒しのバランスが絶妙な『POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~』を推したい。1998年の大ヒットドラマ『GTO』の主題歌で、主演の鬼塚を演じた反町隆史が歌唱し、今でも愛される一曲だ。

 当時アイドル的人気を博していた反町が、出るか出ないかギリギリの低音で「ポイズン……」と歌う。これで私は「言いたいことが言えないときの悔しさ」からフッと解放されるのである。

「言いたい事も言えない世の中じゃ~OH OH♪」というスマートな歌詞でも成り立つのに、「ポイズン!」と慌てて付け足したように早口で歌うのがいい! このなんとも言えない不器用な感じが素晴らしい。「今言いたいことを言えない世の中ってどうなの?」と指摘をした直後の照れやバツの悪さみたいなものを、「ポイズン」の一言が引き受けてくれる感じがするのである。作詞は反町隆史さんご本人。グレイトである!

 

「自己責任」の時代に起きた“歌詞の変化”

 この「POISON」「言いたいことも言えない」に対して、令和のアンサーソング的な歌があるらしい――。そう教えてもらって聴いたのが、BiSHの「I have no idea.」(2021年)。「いいたいことがない」。なるほどなあと感動した。「毛頭目立つつもりはないですそっとしておいて」。昭和が「怒る」としたら令和のキーワードは「一抜けた(戦わない)」かもしれない。「逃げろ」と同時に「全部自業自得でしょ」と歌うのも印象的だ。

 これらの変化は、2004年頃から流行した「自己責任」という言葉が少し関係しているようにも思う。平成の中期・後期になると、怒りをストレートに歌う曲は減っていき「耐える」もしくは「問う」になる。歌詞の多くが、「~しているか?」「~なのか?」と、問いかけ&論じる形式になっていくのである。

2022.07.03(日)
文=田中 稲