バブル期のストレスを歌った森高千里

 人間関係でのマウントにイラついたときに効くのが森高千里の歌である。私が彼女を知ったのは1989年。ロングヘアにトサカ前髪、ミニスカというバブリーないでたちで、価値観を押し付ける輩へのアンチテーゼを歌っていた。しかもその歌詞が、アイドルらしいキラキラのオブラートに包まず、恐ろしくリアル。

 ひたすら「たまる ストレスがたまる」と歌った『ストレス』。「あれこれそれあいつ いらいらするわ」と、愚痴る愚痴る。「笑顔で乗り切りましょう」なんて爽やかなオチは無い。吐き出すことが一番の解消法とばかりに「ストレスがたまる」と歌うのだ。これが写経のようなカタルシスを生み、聴いたあと心を素に戻してくれる。

『臭いものにはフタをしろ!!』では、ロックンロールについて上から目線で語ってくる男に「本でも書いたらおじさん」「私もぐりでいいのよ 好きにするわ」とバッサリ。

 他にも『ミーハー』『非実力派宣言』など、お節介を吹き飛ばすワードで溢れている森高ソング。「自分でちゃんと分かったうえでやってます。しかも楽しくやってます!」という苛立ちを、ユーモアとライトな感覚でサラリ&チクリと歌い、不思議な爽快感がある。

 しかし、『ストレス』『臭いものにはフタをしろ!!』を聴くと、人々がやりたい放題だったように見えたバブル期末期も、意外にストレスフルだったのだなあ、と改めて感じる。お金がモノをいい、マナー違反も続出。男女・上下格差も意外に大きく、偉そうな人は「アンタは宇宙の王様か!?」というほど偉そうで、やりたい放題の影で被害に遭っている人の怒りも相当なものだったはず。

 2006年、安倍なつみが『ザ・ストレス』としてカバーしているが、二人のPVを見比べると、それぞれの時代の「ストレス」が浮かんでくる。森高バージョンはセクハラやマナー違反、安倍バージョンは、パソコンが一般普及した後の切迫感が漂っている。

2022.07.03(日)
文=田中 稲