社会に対して憤り、世の中に物申す名曲は数多ある。その中で今回は、もう少しミニマムな視点の「日常で引っ掛かるイライラに効く」名曲を探していこうと思う。
ただでさえ暑い夏、カーッと血が上る回数が減りますように。
山口百恵と中森明菜の“激おこソング”
グジグジ不満ばかり言う人への怒りに対処したいとき頼りになるのが、70年代~80年代、昭和アイドルの激おこソングである。「強気な女の子がふがいない彼にタンカを切る」という恋愛設定が多いが、歌詞がとにかくストレートなので、聴いても歌っても気持ちがスッキリする。特に山口百恵と中森明菜は外せない。
山口百恵の「馬鹿にしないでよ!」と睨む『プレイバックpart2』。
「はっきりカタをつけてよ!」と迫る『絶体絶命』。
「かっこ」と6回も連呼し、トドメに「かっこばかり 先ばしり」と言い放つ『ロックンロール・ウィドウ』。
70年代前半の歌謡曲では、女は耐える、待つ。そうでないならヤサグレ社会から逸脱するという極端な選択を強いられがちだった。しかし百恵の歌は、凛と面と向かって言いたいことを言う。叱る! どれを聴いても「よくぞ言ってくれました!」と拍手したくなる。
80年代前半は、中森明菜の「じれったい じれったい」とイラつく『少女A』、「それでもまだ私悪くいうの……いいかげんにして!」とキレる『1/2の神話』。
「限界なんだわ 坊やイライラするわ」とイラつきをそのまんま指摘する『十戒』。
勝手な思い込みでアレコレと説教したり勘ぐったりする輩、もしくは言うだけ番長で何にもしないタイプにビシッと睨みつける。ああスッキリ!
山口百恵の3曲は阿木燿子、中森明菜の3曲は売野雅勇が作詞している。ガツンと強烈なパワーワードがありながら、怒りに至るまでのプロセスもしっかり見えるという職人技。イライラをものすごくカッコいい風で吹き飛ばしてくれる。
2022.07.03(日)
文=田中 稲