殿下は悪い意味ではなくお立場上、たいへん孤独であられると思います。というのも常に周囲に気を配り、しかも特定の気のあったひとたちだけと付き合うということは依怙贔屓になるのでお出来になりません。ご自分を厳しく律せられなければならないお立場でしょう。さらに公式の行事にもたくさんご出席になりますし、息つく暇もないスケジュールでいらっしゃいます。そうしたお立場を離れることが出来る、1つの逃げ場が音楽ではないかという気がいたします。殿下はひとりで練習なさったり、皆と合奏したりなさることで、お立場上の孤独を慰めておられるのではないでしょうか。
しかし殿下の演奏は単なるお寛ぎのためというレベルではありません。私は天皇、皇后両陛下とご一緒させていただいたこともございますが、天皇陛下がチェロをお弾きになり、皇后さまはピアノ、殿下がビオラをお弾きになるお姿を拝見していると、実にほのぼのと心あたたまる気がいたします。本当に心のこもった演奏をなさいます。日本の皇室がこうした文化的なものをきちっとお持ちになっているということは、われわれ国民としては世界に対して誇りに思っていいことではないでしょうか。
世間の言葉でいえば、情が深い
殿下は、私と雑談される時などには、ご自分が行かれたタイやバルセロナ五輪の印象などをお話しになることが多かったですね。お酒はけっこうお好きで、お強いです。特定のお酒にこだわるのでなく、なんでもお飲みになる。時には、ドイツのリードなどをお歌いになりますし、そうした席では気のきいた上手なジョークをおっしゃいますね。一番面白かったのは、塩が固まっていて容器からなかなか出ない時があって、殿下が容器を振っても振っても出ないので、「出ませんか」と申し上げると、「早く出んか(デンカ)」とおっしゃったんで周囲は意外なお言葉に爆笑してしまい、すかさず傍の人が「じゃあ、交代し(コウタイシ)てんか」と返して、一同大爆笑になったこともありました。
2022.06.27(月)
文=鎌田 勇