『カムカム』以前から松村を応援してきたファンからしたら、これまでも様々な役を演じてきているし、SixTONESは高身長でセクシー、ワイルド、ヤンチャ、オラオラ系な要素もあるグループ。そのなかでは口数少なめとはいえ、熱っぽい目線を観客に向けて歌い踊る松村は、稔さんだけでは決してないのである。
とはいえ、稔さん効果の大きさも手放してはもったいない。そのせいなのか、もともとそういう予定だったのか定かではないが、柊磨はじょじょにキャラ変していくのである。
途中から毒母・真弓(斉藤由貴)が登場、柊磨は母に溺愛されていて、それゆえ母子関係がうまく結べなかったため、人に甘えられず、他者と適切な距離がとれずに育った。女性関係がルーズに見えたのはそのせいだったことがわかる。さほどイケイケのチャラい人物ではなく、母性本能をくすぐるような守ってあげたくなるようなキャラになっていく。
第8回では畑仕事をするための白Tにデニムのオーバーオール姿が素朴でSNSを沸かせた。学生服、制服、着物……とかちっとした衣裳が似合い、それによってストイックな印象が強調される松村が、ゆるっとしたオーバーオールを着用することでリラックスしたムードになった。
ただ、オーバーオールも制服、着物系と共通する点もある。飾り気がなくシンプルで素朴ということだ。ともすれば地味に見えてしまいそうな衣裳である。松村北斗はそういうところで勝負できる希少な人物なのである。
『恋マジ』以降、どんな役をやるかが勝負
結論を言えば、『恋マジ』出演は松村北斗のアイドルから稔さんまで幅広さがあるというプレゼンとして成功だったと言えるだろう。ひと昔前の俳優たちは人気の高かった役と同じイメージを踏襲することが少なくなかったが、最近はまるで違う人物を演じることこそ俳優という考え方が浸透してきている。
実力主義というのか、スターとしての個性よりもその人とわからないほど化ける才能を讃える時代なのである。そこに松村北斗がみごとにハマった。
WEBザテレビジョンのサイトで本人はザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞のコメントとして「僕自身は出演前後でそんなに変わっていないのに、周囲からの評価が一気に高まった気がするので…(苦笑)。しかし、またハマり役と言ってもらえる役に出合えるように、音楽活動と並行して次に向かえたらと思っています」と語っている。
『恋マジ』後、どんな役をやるかが勝負であろう。大河ドラマを狙ってほしい気がする。平安貴族を描く『光る君へ』なんてハマりそうだ。
2022.06.23(木)
文=木俣 冬