戦後まもなく墨による抽象表現で新たな芸術を切り拓き、世界的な評価を得た美術家・篠田桃紅。本書は昨年3月に107歳で逝去した著者の最後の一冊だ。
「企画が持ち上がったときから『これが最後の本』と桃紅さんは言っておられました。アトリエに伺っては『世の中には才能のある人が大勢いるが、世に出る才能と出ないまま埋もれる才能があるのはなぜか?』といった答えのないやりとりをたくさんさせていただきながら作った本です。経典のように身近に置いて何度でも開いてもらえるよう、新書より少し縦長の手に取りやすいサイズにしました」(担当編集者の山中武史さん)
〈あきらめられないから悩みが尽きないし、あきらめられないから希望も続く。人生はその繰り返し。〉など、著者の人生哲学を短い言葉で伝える「ことば篇」と、波乱に満ちた人生を写真とともに振り返る「人生篇」の二部構成。今より女性の生き方の選択肢が少なかった時代に、独身を貫き、不安と孤独を覚悟して自由を希求した生き様は、凜として美しい。
「女優の高岡早紀さんや中江有里さんがSNSで紹介してくれるなど、女性からの反応を多数いただいています。桃紅さんは、媚びず、曲げず、優しさのある方。ありのままの自分で社会とつながる生き方は、今を生きる人たちの拠り所になるでしょう」(山中さん)
2021年3月発売。初版1万部。現在8刷6万2000部(電子含む)
2022.06.11(土)
文=長谷川未緒