ジャニーズやフォーリーブスがグループだったのに、なぜ僕がソロでデビューすることになったのかはよくわかりません。ジャニーさんは僕には言わなかったですが、何かしらの理由があったのでしょう。

 確かなことは、自分自身では見つけられなかった「郷ひろみ」を、ジャニーさんが僕の中に見出してくれたということです。

 

 新しい世界へ踏み出したばかりの僕には、ジャニーさんから教わることは一言一句重みがありました。たとえば、まだ郷という芸名もなかった頃だったと思いますが、こう言われたことがあります。

「ひろみには、この世界での友だちは必要ないよ。だから、他の歌手と仲良くしないでいいから」

 今は自分を高めることだけに集中しなさい、という意味のアドバイスだったのでしょう。ただ、当時の僕は額面通りに受け止めるばかりで、テレビ番組で同年代の歌手と会っても距離を置き、自分から話しかけようとはしませんでした。生意気なやつだと思われていたとしても仕方ありません。

 要は、まだ幼かったのです。それ以外でも、考えに浅いところがあって、19歳でジャニーズ事務所を退所しました。その頃はジャニーズ事務所も本当に小さな会社でしたが、僕が出てから今のように大きくなっていきました。縁がなかったと言えば残念ですが、僕もやがて自分の至らなさに気づくことができ、双方にとっていいことだったのかなとも思います。

“郷ひろみ”は天職

 僕はその後、「この仕事は天職なんだろうな」と思うようになりました。30代の頃にははっきり自覚していた気がします。15歳からずっとこの世界で、迷うことなくやってきている。それどころか、この仕事が好きで好きで、どんどんのめり込んでいっている。これはどう考えたって天職だろうと思いますよ。

 ステージの上で歌を歌うということは、役者として「演じる」面があります。歌いながら過去の経験を思い出したり、あるいは想像力を働かせたりして、次々にいろんなことが脳裏に浮かんでくるんです。同じ歌を歌うにしても、毎回違った思いが反映される。言い換えれば、毎回違った自分がステージ上に存在する。だから面白いのです。

2022.06.07(火)
文=「文藝春秋」編集部