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関西では「おいなりさん」と呼ばれ、親しまれているいなり寿司。「季節といなり 豆椿」は、その名のとおり、季節のおいなりさんを供するお店です。
阪急電鉄箕面駅から南東へ、閑静な住宅街を歩くこと約10分。桜並木の通りに白い暖簾が揺れています。2016年6月のオープンの小さなお店を営むのは、細井久美子さん。
「お総菜や給食など調理の現場で働きながら、休日、クラフトフェアなどのイベントに、いなり寿司やランチボックスで出店するようになりました。工房を持ちたいと場所を探していたら、ここが見つかって」
テイクアウトとイートインを始めたのだそう。

いなり寿司にした理由をたずねると、「日本の食文化に興味があって色々調べてみたら、米と大豆が基礎にあると気づいたんです。お米と大豆を使ったもので季節感を出すことを考え、いなり寿司にいきつきました」とにっこり。
おいなりさんは、常時3種類。定番の「古代米」は、三角形。中のお米には黒米がブレンドされています。他の2種類は季節の素材を使ったもの。取材時は「新玉葱」と「苺」。丸めた寿司飯をお揚げさんで巻いたスタイルが愛らしい。

空豆、レモン、新生姜、実山椒……と、3~4週間毎に次々と変わっていきます。完熟したものを塩漬けした梅も登場するとか。
そして、夏場、7月末から8月初めになると、いなりはお休み。店はあんみつなどの甘味処になります。
一見、とてもシンプルなおいなりさんですが、細井さんのこだわりが込められています。
使っているお揚げさんは、京都の小さな豆腐屋から直送。「いろいろ試して、厚みやキメの細かさで決めました。味の入り方が違うんです」。調味料も京都のもの。お酢は齋造酢店の「花菱」、醤油は澤井醤油本店の「まるさわ」。出汁は、昆布と荒節で。鰹節を入れてから炊いて、うどん出汁のようなしっかりした出汁をとると言い、「酢飯には砂糖を使わず、お酢、みりん、塩で味付けしています」と細井さん。

そんなこだわりのおいなりさんをテイクアウトして、おやつに食べるのも楽しいのですが、時間があれば、おいなりさんをメインにしたコース仕立ての「昼餉」を予約して楽しみたい。


「結」という大テーブルのコーナーは、ガラス張り。外光がたっぷり入る明るいスペース。さりげないアート作品や作家物を使ったしつらえに、細井さんのセンスの良さがうかがえます。
2022.05.15(日)
文・撮影=そおだよおこ