木皿 泉さんの作品のように寓意とリアルが両立する世界を描きたい

――三浦さんは好きな作家や作品からの影響を、舞台でストレートに出すタイプだと思うんですが、今回は?

三浦 脚本家の木皿 泉さんの作品には影響されています。木皿さんの作品は死に対するまなざしが暖かいし、寓意性とリアリティが両立する世界観で参考にさせてもらっています。特に、テレビドラマの「すいか」は、少し不思議で緩やかなコミュニティが描かれつつも、現実的な話が出てくる。

 今、生きる人の問題というか、働くことや、お金のこと、結婚とか離婚のこと……。リアルがちゃんと寓話と結びついているところが、本当に素晴らしいなと思います。あと、女性たちの会話の楽しさも好きで。自分もいつかそういうものを書いてみたいと考えていますね。

今の時代に合った新しい「ロマンティックコメディ」を

――『ロマンティックコメディ』というタイトルは脚本を読んで、一見そぐわないかもと思いました。どんな含みがあるんでしょうか。

三浦 母親がよく家でロマンティックコメディを見てたいたこともあって、元々親しみはあったんです。でも、そういう作品にありがちな、恋愛イコールハッピー・エンドみたいなのは、僕の中ではちょっと違和感があって。いわゆるロマンティックコメディって男女が出会い、最初は険悪な仲だったのが段々惹かれあっていくっていうのが典型的なパターンですけど、それとは違う、今の時代にあった新しいロマンティックコメディを描きたいなって。

花田 私も、異性間の恋愛の成就がハッピーエンドっていう話に飽きていたり、違和感を覚えたりしているところがあって。だから、三浦さんが考えている、新しいロマンティックコメディのあり方というのは見てみたいですね。

三浦 この人たちなんだろう? っていう謎のコミュニティを出したいなと思っていましたね。緩く繋がっているようなコミュニティ。

花田 なんとなくの緩いつながりって、実際の書店にもあったりしますね。先ほど(前編で)語ったこともそうですが、店主の顔が見えるような書店は、書店でのイベントを抜きにしても色々な人が集まれるコミュニティになっている。それは本だけでなく、他の趣味のコミュニティーや行きつけのバーとか、地下アイドルのファンたちとか、どんなところにも生まれうるものだと思いますが……。好きな時に抜けても、戻ってきてもいい集いになっている。

 必ずしも固定のメンバーと一緒にいなくても、隙間のような希望があるというか。この人たちと一生やっていくんだっていう重さとか、呪縛みたいなものもない。それを家族と呼ぶのか仲間とか呼ぶのか友人と呼ぶのか分からないですけど。自分で選びとっていく関係性というか。以前、三浦さんも「家族とか恋人っていう言葉を解体したい」とおっしゃっていましたよね。それって凄く共感できるなと私も思っていて。

三浦 はじめから与えられた「家族」ではなく、生きてきた中であとから生まれる疑似家族的な関係性、連帯や関りの中でたまたま生まれる愛情の形を大切にしていきたいなと。そういう意味で「ロマンティックコメディ」では書店という舞台にたまたま生まれていく緩やかなつながりを描こうと思いました。

花田 本や書店を通じたコミュニティーって、少なくとも自分にとっては人生から切り離せない大切なものです。自分の好きな本と自分はイコールではないけど、だからこそ本が分身になって自分を他者にさらけ出すのを助けてくれる。本をトリガーにして自分の内なる思いを聞かせてくれる人はいつも眩しくて素敵なものです。だから私は書店という場から離れられないんですよね。今回、三浦さんが書店という場をどんなふうに見せてくれるか、とても楽しみなんです。早く作品を観劇したいです。

――最後にお二人の今後の活動の目標などを聞かせていただければ。

花田 私はもうすぐ自分の書店をオープンしようと思っています。

三浦 ええ、そうなんですか⁉ 行きます、絶対行きます。

花田 来てください、というか、えっ、じゃあ一緒に本屋をやりましょうよ(笑)。なんて、それは無理だとしても三浦さんのおすすめ本のコーナーとか、ぜひ作らせていただきたいです。

――三浦さんはいかがでしょう?

三浦 僕は日大の芸術学部の映画学科を受けたんですけど、落ちて、演劇学科に行ったんです。はじめは、宮城県出身で演劇なんてまったく見ていなかった僕なんて通用しないと思っていたんですよ。田舎者だと皆からバカにされて、友達がひとりもできなくて終わるんじゃないかって。だから、いっぱい演劇見なきゃと思って『ユリイカ』とか『スタジオボイス』のバックナンバーを取り寄せて、かたっぱしから今注目されている劇団の公演を見ていったんです。

 そうしたら、「あ、演劇、すごい面白いじゃん!」ってなって。地方って演劇の公演がそもそもないから、演劇のことは全然知らなかったりするんです。音楽とか小説は地方でも共通言語になり得るんだけど。だから、どうやって演劇に接点のない人たちが演劇を見るきっかけを作ろうかずっと考えていて。演劇と遠いところにいる人たちを劇場に呼び込めるようにしたい。それが最大の目標ですね。

» 対談前編「書店も舞台もリアルが愛おしい」を読む

三浦直之
ロロ主宰/劇作家/演出家/

10月29日生まれ宮城県出身。2009年、日本大学藝術学部演劇学科劇作コース在学中に、処女作 『家族のこと、その他たくさんのこと』が王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」に史上初入選。 同年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当する。脚本提供、歌詞提供、ワークショップ講師など、演劇の枠にとらわれず幅広く活動中。2016年『ハンサムな大悟』第60回岸田國士戯曲賞ノミネート。

花田菜々子
書店員/作家

1979年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。2003年ヴィレッジヴァンガードコーポレーション (株)入社。その後、「二子玉川 蔦屋家電」ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」、「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長などを経て、現在はフリー。実体験を綴った私小説『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など著作業でも活躍する。

ロロ『ロマンティックコメディ』

日時 2022年4月15日(金)~4月24日(日)
会場 東京芸術劇場シアターイースト
所在地 東京都豊島区西池袋1-8-1
時間の詳細はHP(http://loloweb.jp/Romantic/)をご確認ください
料金 前売一般 4,500円、U-25前売り3,500円、高校生以下 1,000円(枚数限定/一律)
   ※当日券は各500円増となります。

2022.04.10(日)
文=土佐有明
写真=橋本 篤