あれだけハードな練習をしていれば、それで自然に身体が整ってきます。それでも太ったりキレがイマイチってときは、やっぱり食生活だったり睡眠、メンタル、生理といった何らかの原因があります。それは私自身も経験してきているので、彼らの体つきや動きを見ればわかるんですよね。だから「昨日、夜ふかしした?」と聞くわけです(笑)。

 正直、私自身アスリート時代はトップ集団にいたこともあり、アメリカに来てから「そこから説明しなきゃいけないのか……」みたいなカルチャーショックもあります。

 

ソビエト選手たちの「夜中にこっそりトランプするのが最高に楽しかった」

――先ほどの中国・ロシアの環境含め、お国柄も影響がありそうです。

村主 昔ロシアの先生に教えてもらったことがあるんですが、ソビエト時代に選手だった時、本当に毎日練習しかしていなかったらしいんです。「それで夜中にこっそりトランプするのが最高に楽しかった」と話していて。他のエンタメを知らなかったぶん、当時はつらいとも思わなかったらしいんです。

 自由で豊かな国ほどアスリートにとっては誘惑も増えるので、コントロールが大変なのかもしれません。

――そう考えると日本選手はリンクの少なさ含め、恵まれた環境とは言い難い中、ものすごい結果を出していますね。

村主 アメリカに来てさらに強く思うようになりましたが、本当に日本人は真面目です。私は江副記念リクルート財団の奨学生制度の選考委員を務めているんですけど、最終面接の自己アピールで、ほぼ全員が「自分の良さはコツコツ真面目にできるところ」と言います。

――何なら自分も新卒採用試験の時に同じこと言ったと思います。

 村主 「アメリカンドリーム」とはよく言ったもので、彼らの多くは一攫千金、一発大逆転みたいなのを狙ってて。トップに立つための裏道や近道探しにやっきで、「日々の努力」にはあまり興味がない。むしろ真面目にやるのはクールじゃない、みたいな空気すらありますね。

いまの選手に向ける、指導者としての願い

――先ほど話をされていたカルチャーショックとつながる部分ですね。

村主 その分、教えがいはありますよね。私は選手時代から、自分のストーリーをいかに表現して皆さんに伝えていくかを考え続けてきました。それは今もまったく同じで、ただ演者が自分ではなく、生徒に変わっただけ。

 メダルという尺度だけでなく、選手自身が表現を通じて唯一無二の存在になってもらえたら最高ですね。

2022.03.06(日)
文=小泉なつみ