『映画 聲の形』山田尚子×吉田玲子コンビの再来

 アニメ『平家物語』は、作家・古川日出男による「平家物語」の現代語訳を原作としつつ、『映画 聲の形』などで知られる山田尚子監督と脚本家・吉田玲子のコンビがアニメの最適解を模索した、野心的な作品となっている。

 吉田氏は脚本に加えて構成も務めており、膨大な物語を22~24分×11話に収めるにあたって、エピソードの取捨選択や語り手の統一(原作では複数の琵琶法師によって語られる)など、さぞかし苦労したことだろう。

 山田監督も、公式インタビューにおいて「想像がつかなさ過ぎて面白いというかラッキーだと思った」「現代劇以外のお話を触るような未来があるとも考えていなかった」とオファーが来た際の驚きを語っている。となると、このクリエイターコンビに期待されていたのは化学変化、現代の視聴者に届けるための“リ:イマジネーション”といえるのではないか。

 ちなみに、アスミック・エース×古川日出男×サイエンスSARUのコラボといえば今年公開される映画『犬王』もあり、『平家物語』は『犬王』と連なる2大プロジェクトの一環でもある。

 『犬王』は、湯浅政明監督×キャラクター原案:松本大洋(「平家物語」の帯絵も手掛けた)×脚本:野木亜紀子といった座組であり、こちらもまた『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』の野木が入ることで、よりフラットな視点の物語になることであろう。

 話を『平家物語』に戻すと、先のインタビュー内で山田監督は「『平家物語』はともすれば叙事詩だと思うのですが、今回のアニメでは叙情詩としての『平家物語』を描いてみたかった」と語っている。

 この点が実に興味深い。つまり、歴史ものでありながらより感情の揺れ動きに重きを置いた内容にするということ。となると、歴史的に重要なイベントは描きつつも、よりシーンを割くのは登場人物が何を思い、どう生き、そして死んでいったのか――つまり“情”の部分になる

 また、「平家物語」はクライマックスの印象が非常に強い物語といえ、悲劇で終わること自体はほとんどの方が知っていることであろう。なればこそ、そこに至るまでの感情の流れを主軸に描いていけばいくほど、「ラストを知っている」視聴者たちの涙腺を刺激し、エモーショナルなドラマに仕上げていくことが可能になる

 実際、『平家物語』に登場する人々は皆、ためらい迷い嘆き、苦悩しながら日々を生きている。権力者になったからといって常に幸福なわけではなく、いつ寝首をかかれるかと怯えたり、疑心暗鬼に陥ったりする。

 争いごとを望まぬ性格であっても、平家に生まれたからにはそうはいかない。そしてまた、政治の“道具”として嫁ぎ先を決められたりもする。ジェンダーに関係なく、平家の人間が皆思うように生きられない姿が印象的に描かれていくのだ。

※以下、アニメ『平家物語』第6話までのストーリーに触れている箇所があります。

2022.02.20(日)
文=SYO