「このタイミングで“あの目”になってもらっていいですか」

――敢えて1つだけ聞かせてください。身を隠している山内は、靴を履いたまま寝ていました。恐怖感が増す演出だなと。台本にそう描写されていたのですか?

 いえ、監督と話して決めました。普通に考えたら靴を履いたまま寝るよね、と。お芝居に関しても、身につけるものに関しても、監督と細かく話し合いながら山内を作っていきました。

 1日(につき、台本)1ページしか撮らない日があるくらい、じっくりやる現場だったんです。本番で何回もテイクを重ねて。テイクごとに「もうちょっと声を高くしてみましょうか」くらいの細かさで、パターン違いをいろいろ試して、「これだ!」というお芝居を見つけていって。カットを割るたびにシーンの頭からケツまで通して芝居をするので、時間はかかりましたけど、いろんなことを試せて嬉しかったです。

 こんなにも監督が芝居を見てくれることは貴重なことなので、役者としてはこの上ない幸せでした。

――1月期ドラマ「となりのチカラ」では、10年前に世間を震撼させた、凶悪少年犯罪事件の真犯人「少年A」という噂のある青年役を演じています。そういった役をオファーされる理由の1つに、ときに「死んだ目」と表現される、独特の目があると思うのですが。

 今回の作品の目つきに関しては、監督と話し合ってこだわりました。山内は人の懐に入り込むのがうまいからこそ、ターゲットを家に連れ込んで殺すことができる人間なので、相手を信用させる普通の青年っぽい山内と、いざ相手を手に掛けようとする瞬間の山内との差をつけて二面性を出したかったんです。

 それを意識していたら、監督も同じことを思ってらっしゃって。最終的に監督と僕の間で、「このタイミングで“あの目”になってもらっていいですか」みたいなやりとりをしていました。そこは見たら伝わるようになっていると思います。山内が自分で切り替えているのではなくて、自然とそうなってしまう。ちょっとトロ〜ンとした温度感は意識しました。

――山内の目を見て、久田将義さんの著書『生身の暴力論』の、「殺人者はなぜ『眠そうな目』をするのか?」という一文を思い出しました。

 あ、そうかもしれないですね。僕も常に眠そうな目をしていますけど(笑)。

――(笑)。目の表現に関する発言からも、清水さんがニュアンスや雰囲気だけでなく、しっかりと考えて役を表現していることが伝わります。

 お芝居の勉強をしてきたというバックボーンがないまま、いきなりポンと現場に駆り出されて、肌で感じたことを体に染み込ませていったタイプなので、感覚の部分は変わらずあります。でも、自分なりに「こうした方が面白いかな?」「こうしたらどうだろう?」と、頭の中でものすごく考えて、現場でも出来る限り試行錯誤します。

――例えば?

 リズムは気にします。セリフの一つ一つの文章にも絶対にリズムがあると思ってて。「セリフのこの一文字がなければすごくきれいなリズムなのに……!」と感じるときは、出来る範囲で語尾を変えたりして、リズムを修正しています。逆に山内のような役に関しては、リズムが悪くてもいいときもあるので、以前よりもそこの見極めは意識して探っています。

2022.01.21(金)
文=須永貴子
撮影=鈴木七絵