フロイト以後のセバスチャンをめぐる解釈

「聖セバスチャン」ニコラ・レニエ作 ドレスデン、アルテ・マイスター絵画館所蔵(Ca. 1625年)

 聖セバスチャンに話を戻すと、彼は何本もの矢で射抜かれているので……これはもう、一体どう解釈すればよいことやら!? 宗教学上、あるいは、美術史的な解釈を超えて、スキャンダルの域に達するエロティックな見解……例えば、男性器を象徴する矢が複数突き刺さっているのは、描かれている対象に対する性的なアプローチであるとする解釈が登場した。フロイト的な精神分析が知識階級の間でもてはやされるようになった19世紀末の文学者、詩人、音楽家、演劇、美術関係者の男性に同性愛者が多かったこともあり、聖セバスチャンをみずからと同一視した芸術家たちの間にエロティックな妄想がどんどん広がっていき、以後のセバスチャンは、聖人の殉教という文脈を借りてはいるものの、より露骨に「性欲の対象」として描かれることが増えていく。

腐女子は身もだえる美青年がお好き!

 美しい青年が苦痛に身をよじるのをよく見かけるのは、近年では教会の中ではなく、もっぱらTVドラマや映画の中だろう。アクション、サスペンス、ホラー……そのいずれをとっても、拷問されたり暴力行為によって傷つき、身もだえる若い俳優たちの姿がある。映画やドラマでよく目にする若い俳優を使った拷問シーンでは、聖セバスチャンをはじめ、歴史的な殉教聖人の絵画とほとんど同じ構図だ。

 だからこそ、それを見て、女子(そして、おそらく男性同性愛者の皆さんも)たちは、きゃーきゃー騒いでいるのであり、ハリウッド映画は飽きることなく、惜しみなく肉体をさらけ出す若い男性を次々と見つけてきては、俳優としてデビューさせている。

 いかがでしょうか? 少しお勉強になりましたか?

岩渕潤子

岩渕潤子 (いわぶち じゅんこ)
AGROSPACIA取締役・編集長、青山学院大学総合文化政策学部・客員教授。
著書に『ニューヨーク午前0時 美術館は眠らない』、『億万長者の贈り物』、『美術館で愛を語る』ほか。
twitterアカウントは@tawarayasotatsu

Column

腐女子のためのBL西洋美術史入門

欧米のBL文化にも造詣の深い美術研究家、岩渕潤子さんが、西洋の歴史的名画、彫刻の中から垂涎の美少年、美青年をセレクト。無垢な瞳、あどけない唇、光輝くお尻の魅力を分析します。

2013.07.20(土)