生と死のはざまをゆらゆらと泳ぐ“金魚”

 一升枡の中を泳ぐ一匹の金魚。

 しかし、近づいてみるとそれは本物の金魚でなく、描かれたものであることに気づく。圧倒的な立体感でありながら、幽けき佇まい。現実に生きているかのように見えながら、どこか静謐とした死の世界を思わせる。

 金魚絵師・深堀隆介は透明樹脂にアクリル絵具で金魚を描くという、独自の手法で注目を集めている現代美術家。2021年12月2日(木)から、上野の森美術館にて深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」と題した展覧会が開催中だ。

 展示は、深堀氏のおよそ20年におよぶ金魚絵の歴史を振り返る全6章からなる構成となっている。

 第1章は「樹脂との格闘/進化する技法」と題して、深堀氏の原点ともいえる金魚酒シリーズなどを展示している。主に実在する金魚を基に創作をする深堀氏だが、このシリーズについては自らの脳内で品種改良した、その時の自分が美しいという金魚を作出することに情熱を注いでいるという。

ライブペインティングによって、まさにその場で命を吹き込まれた金魚も

 第2章は「2D-平面に棲む」をテーマに平面作品を展示、実際の金魚のサイズ感とは異なり、平面作品では主に自身の身長と同じぐらいのサイズの金魚を描くことが多いという。

 第3章、第4章では「偏在する金魚たち」をテーマに、樹脂、布、木、紙、セメントなど、それこそさまざまな素材に描いた金魚たちが展示されている。本来金魚がいるべきではない場所にいる金魚。それは依るべき素材だけの話ではなく、依るべきシチュエーションもそうだ。捨てられる直前まで使用したくたびれた容器や本来水を入れるものではない箪笥など。

 「偏在する金魚」たちは、その物の歴史や、その物の生活をそのまま代弁するかのように優雅に泳いでいる。

第5章「2.25D――表面と深さのはざまで」

 踏みつぶされた空き缶の表面を泳ぐ金魚たち。そこには紛れもない“深さ”が存在している。物質的な深さではなく「その空き缶」の“記憶という深み”を泳ぐ金魚。いつどこで拾った空き缶なのかによって、浮かび上がる金魚は変わる。大量生産・大量消費の結果、路傍に捨てられた空き缶に金魚が浮き上がってくる。それは私たちの人生とも重なる部分なのかもしれない。

 第6章では新しい表現形式を探求し続ける深堀氏の現在に繋がる「新展開――生まれつづける金魚たち」が。10年ほど前から制作を始めた「鱗象シリーズ」は、ウロコの下に様々な色や模様を重ねた抽象表現。実際の金魚の皮膚構成を積層絵画で表現した新しい“リアル”を表現している。

2022.01.01(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵