金魚を描くことになったきっかけ
深堀が金魚を描き始めたのは20年ほど前。
脱サラをして、アートの道を志したもののなかなかうまくいかず、芸術で生きていくことを諦めようかと考えた時だったという。
「自宅で7年ぐらい飼っていた、金魚すくいで取ってきた金魚が、ふと美しく見えたんです。鱗も剥がれているし、眼も片目になっているし、ボロボロ。でもその時の僕にはなんだか美しく見えた。これが僕の追い求めていた美なんじゃないか。その直感を信じて描き始めました」(深堀氏)
深堀氏が生みだした樹脂に直接金魚を描く技法は、日々金魚を描き続けた結果、見出されていった。そこにいるかのような不思議な存在感はその技法によって誕生している。
「アクリル板を重ねるのではなく、書いた絵の上に樹脂を流し込んでいく。すると絵がどんどん埋め込まれていくことになる。埋め込むことで、もともと絵を描いていた水面はなくなって下へいく。どんどん作家の手を離れて、金魚が向こう側へ行ってしまう感覚になるんです。水面の向こう側。そうすると、金魚に自然と命が吹き込まれて泳ぎ出すような不思議な感覚が生まれてくる」(深堀氏)
深堀氏は生きている金魚をデッサンすることは殆どないという。愛する金魚が亡くなった時にだけ、手帳やノートにデッサンする。そしてそのノートを「DEATH NOTE」と名付けている。
「動けなくなったからこそ見えてくる体の特徴や細部を自分の脳に焼き付ける作業」と深堀氏は説明する。その脳に焼きついた金魚たちが、芸術作品として新たに生を受け、広い幻想の海を自由に泳いでいるのだ。
展示されている作品はおよそ300点。展示会場で自由に泳ぎまわっている金魚はいったい何匹ぐらいいるでしょうか。
上野は金魚養殖発祥の地とも言われるいわば金魚の聖地。そんな上野の地で、少し変わった金魚を眺めてみませんか。
深堀隆介展
「金魚鉢、地球鉢。」
会場 上野の森美術館(東京都)
所在地 東京都台東区上野公園1-2
会期 2021年12月2日(木)~2022年1月31日(月)
開館時間 10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日 年末・年始(2021年12月31日[金]、2022年1月1日([土])
入館料 一般 1,600円、高校・大学生 1,300円、小・中学生 800円
https://www.kingyobachi-tokyo.jp/outline.html
※詳細についてはWEBサイトをご確認ください。
2022.01.01(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵