日本において史上最高にCDが売れた1990年代、国民的ヒット曲が誕生するも、徐々に音楽産業が下り坂となった2000年代、YouTubeやSNSの普及で、新たな流行の法則が生まれた2010年代……。それぞれの時代で、いかにしてヒット曲は生まれ、それらは社会に何をもたらしたのだろうか。
ここでは、音楽ジャーナリストとして活躍する柴那典氏の著書『平成のヒット曲』(新潮新書)の一部を抜粋。山口百恵と安室奈美恵。時代を象徴する歌姫の去り際を比較し、社会の変化を読み解いていく。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
山口百恵と安室奈美恵
2017年9月20日。安室奈美恵は、40歳を迎えた誕生日の当日に、自身の公式サイトを通じて引退することを発表した。
〈 最後にできる限りの事を精一杯し、有意義な1年にしていきたいと思ってます。〉
そう綴られた引退発表の言葉の通り、安室奈美恵は、自ら引退日と定めた2018年9月16日までの1年間で、オールタイム・ベストアルバム『Finally』を発表し、5大ドームツアーを行い、大きなセンセーションを世に巻き起こした。ベスト盤は230万枚を超えるセールスを果たし、2017年と2018年のオリコン年間アルバムランキング1位を記録する。
こうして、安室奈美恵は名実ともに「平成の歌姫」となった。
「最後は笑顔で! みんな元気でねー! バイバーイ!」
2018年6月。約80万人を動員したラストツアーの最終公演、東京ドーム。最後のMCで安室はファンへの、スタッフへの感謝を語り、マイクを握ったまま高々と両手を掲げ、笑顔でステージを降りた。
ちなみに、やはり人気絶頂期に結婚を発表して引退した「昭和の歌姫」山口百恵のファイナルコンサートでの最後の一言は「本当に、私のわがまま、許してくれてありがとう。幸せになります」だった。1980年10月の引退当時、年齢は21歳。あふれる涙に顔を濡らしながら「さよならの向う側」を歌い、白いマイクをステージの中央にそっと置き、静かに舞台裏へと去っていった。
2021.12.17(金)
文=柴 那典