年齢によって変化する演技の難しさ
少年の面差しを残していた前回までとは違い、成人してからは初めてとなる今回の仔獅子。どのような思いで取り組まれるのでしょうか。
「仔獅子のあどけなさというものを、今度は芸として表現していかなければなりません。踊りとしてきっちりと成立させながらもそれをどこまで克服できるか、そして毛振りだけが見どころではない、作品世界の魅力をどれだけお客様に伝えることができるか……。21歳の今だからできる仔獅子を追求して松嶋屋の『連獅子』というものを極めていきたいと思っています」
コラム【奥深い芸の道】
仁左衛門さんのご意向があって実現したという今回の『連獅子』。実は仁左衛門さんは、35年も前からこの日を思い描いていたのだそうです。そのことが語られたのは、お二人揃って臨まれた合同取材会でのことでした。
「中村屋のおじさん(十七世中村勘三郎)が今の私と同い年くらいの時に、当時の勘九郎くん(=十八世中村勘三郎)と『連獅子』を踊られているのですが、その舞台がものすごく素敵でしてね。幕が開いて閉まるまで、劇場を包む雰囲気がとにかく素晴らしく、ああいう空気をつくれる役者になりたいと思いました。そして歌舞伎座で『連獅子』が踊れる役者になれたなら、ぜひおじさんと同じ年齢で息子と『連獅子』を踊りたいと心に決めていたのです」
ご子息、つまり千之助さんの父である孝太郎さんが女方の道に進まれたことに加えて、千之助さんの幼いころからの強い思いが重なり、孫の仔獅子で若き日の決意は現実となったのでした。しかも実際の年齢は仁左衛門さんの方がひとつ上、歌舞伎の本興行では最高齢の親獅子です。ここに至るまでには孝太郎さんとも何度も踊られていて、その過程を振り返りました。
「おじさんに憧れてはいましたけれど、若い時からそれを追いかけていたらおそらくダメになっていただろうと思います。『連獅子』に限ったことではありませんが、年相応の中で目指すべきものというのがあるのです。いずれはこんなふうにと思いながらも、その時にできることを積み重ねていった上でこそ、到達できる境地なのだと思います」
仁左衛門さんでさえ、いまだに「発見がある」という奥深い芸の道。千之助さんが「わかればわかるほど難しくなる」というのも道理です。そこで大切なのはその時の自分にできる精一杯を尽くすということ。それは千之助さんが語ったようにすべてに共通することなのかもしれません。
『連獅子』はよく上演される歌舞伎の代表的な演目ですが、どの舞台にも“その時の今”しか観ることのできない味わいがあるのです。
●千之助さん 第二部『連獅子』に出演!
「吉例顔見世大歌舞伎」
期間 2021年11月1日(月)~26日(金)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時30分~
第三部 午後6時00分~
※休演 8日(月)、18日(木)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/731/
●千之助さん 第二部『身替座禅』に出演!
「吉例顔見世興行」
期間 2021年12月2日(木)~23日(木)
第一部 午前10時30分~
第二部 午後2時30分~
第三部 午後6分~
※休演 7日(火)、15日(水)/貸切 18日(土)第一部、第二部
会場 南座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/734/
衣装クレジット
片岡仁左衛門 スーツ、シャツ、ネクタイ/すべてエルメネジルド ゼニア(ゼニア カスタマーサービス 03-5114-5300)、シューズ/パラブーツ(パラブーツ 03-5766-6688)、その他スタイリスト私物
片岡千之助 スーツ、シャツ、ネクタイ/すべてルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854)、その他スタイリスト私物
歌舞伎の今をたずねる
2021.11.13(土)
文=清水まり
撮影=末永裕樹
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