本書を読むと、ユージン・スミスとは、いわば“橋の向こう側”に渡って写真を撮る人だったことが分かる。だが、作品がこちら側に引き渡された後も、撮られた者たちの人生は続く。

 ユージンの生涯を追った著者は、向こう岸でかつて写真家を受け入れた「個」の思いに再び光を当てた。一枚の写真の背後にあったそのもう一つの物語が、最後に強く印象に残った。「いま」と地続きの水俣というテーマの重さを、あらためて感じずにはいられなかったからだ。

いしいたえこ/1969年生まれ。ノンフィクション作家。白百合女子大学卒業、同大学院修士課程修了。囲碁観戦記者等を経て『おそめ』を発表。『原節子の真実』で新潮ドキュメント賞、『女帝 小池百合子』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
 

いないずみれん/1979年生まれ。ノンフィクション作家。『ぼくもいくさに征くのだけれど』で大宅賞受賞。最新刊は『廃炉』。

2021.10.27(水)
文=稲泉 連