浅岡を演じる西島秀俊
浅岡を演じる西島秀俊

 人を生かす自然が災害時には人を殺す自然にもなるように、人を助ける仕事は一瞬にして人を殺す仕事にも変わりうる。安達脚本の描く苦悩は、報道や表現という自分たちの仕事に対する、作り手たちの誠実な自己言及にも思える。

 そうした安達奈緒子の繊細な脚本を支えるのは、清原果耶たち俳優陣の確かな演技力だ。永浦百音という主人公は、決してポップでキャッチーなキャラクターではない。だが清原果耶の確かな演技力は、分かりやすい快晴と土砂降りの中間に無数に存在する、表情の「曇り」を繊細に演じ分けている。

 それは名場面、名演技としてSNSでシェアされる派手な演技ではないかもしれない。だが、脚本の安達奈緒子が「百音は森羅万象を感じる天才。清原果耶さんもそのような方」と全幅の信頼を置き、『なつぞら』で共演した広瀬すずが「(彼女に感じたのは)根っこにある意志というのかな、心の強さ。しっかりした考えを持っている子だから、一緒にお芝居をしていてとても楽しかった」とムックで評する通り、確かな意志と知性を持った静かなヒロイン像を作り上げている。 

 

いろいろな意味で「先が見えない」

『おかえりモネ』という作品から目が離せない要素がもうひとつある。それは「今を描く」ことを目標にしたこの作品が目指す2021年、我々の現在が、今なお流動しているということだ。

 コロナ禍によってスケジュールが移動した『おかえりモネ』の最終回は10月29日に放送されることが決定している。安達奈緒子の脚本は最終回、日本の『今の現実』に近づくだろう。だが、最終回放送予定の10月29日がやってきた時、僕たちの現実がどんな姿をしているか、まだ誰にもわからないのだ。

 この原稿を描いている時点で、東京都の1日の感染者数は5000人を突破した。毎日のニュースでは、放送中の連続ドラマの出演者がCOVID19に感染したというニュースが次々と飛び込んでくる。

 清原果耶たちキャストがいかに入念に感染対策をしていようとも、デルタ株と呼ばれるこれまでとまったく違う感染力を持った変異株は、同じように感染対策を徹底したはずの現場を次々と食い破っている。ドラマのクランクアップまで、撮影が無事に完走できる方が幸運とさえ言える状況だ。

2021.08.15(日)
文=CDB