「少女が自己実現としての職業に出会い、立ちはだかる障害に負けずに夢をつかむ」という朝ドラの王道を踏襲するようでいて、気象予報士という職業を「夢の仕事」として単純な描き方をしていない。その複雑さが『おかえりモネ』という作品の説明を難しくしている一因でもある。

 

「『わからないこと』は罪であるかのごとく…」チーフ演出の言葉

 NHK出版の公式ガイド『おかえりモネ Part1』では、チーフ演出の一木正恵氏がこのドラマの複雑さについて、演出家の立場から的確なコメントを載せている。

「安達奈緒子脚本の最大の魅力は、視聴者との信頼関係の上で成り立つ高度で繊細なセリフ。そこから導かれるうそのない芝居の情感、と考えています。わかりやすい事件や対立は起きない。人はそうやすやすと心情を吐露しないし、大切なことほどことばにはならない。そんな人のもどかしさやいじましさを描くことから一歩も退かない信念が貫かれています。

 今、『わからないこと』は罪であるかのごとく、シンプルなものが求められる。しかし分からないことを受け止め、想像力を広げる力を物語の受け手は持っています。私は、この物語でもう一度強く、受け手の皆様の知性や想像力を信じて創るつもりです。

 朝ドラはセリフや語りでいかに明快に物語を伝えるかが大事と言われます。しかしキャストやスタッフと共に、皆様の心臓にダイレクトに語りかけるような表現に、挑み続けていきます」

©aflo
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『おかえりモネ』という作品のスタンス、そして安達奈緒子脚本の価値を自信を持って演出の立場から視聴者に宣言した文章と言えるだろう。

 どれほど科学が進歩しても、自然を相手にする気象予測は不確定な部分を抱えている。安達奈緒子の脚本はまるで自然を繊細に分析する気象予報士のように、登場人物たちの心の雲の形を丁寧に描いていく。青空の下で笑ったり、土砂降りの雨に打たれて泣き叫ぶ鮮烈な場面の中間にある、いくつもの複雑な心理と人間関係の描写が『おかえりモネ』の特徴だ。

2021.08.15(日)
文=CDB