『エヴァ』から得た教えを忠実に生かす『呪術廻戦』

 芥見下々による漫画『呪術廻戦』は、呪いとそれを祓う「呪術師」の戦いを描いた物語。史上最悪の“呪いの王”である両面宿儺の指を食べ、その“器”となった高校生・虎杖悠仁が、呪術師の訓練を積むため、養成機関である東京都立呪術高等専門学校に入学。多くの仲間と切磋琢磨しながら、人々を屠る“呪霊”に立ち向かっていく。

 『呪術廻戦公式ファンブック』(集英社)を参照すると、1992年生まれの芥見氏が『エヴァンゲリオン』に出会ったのは、中学生の時。元々小学生で当時(2001年)に連載開始した『BLEACH』に衝撃を受けた彼は、その後に『HUNTER×HUNTER』と『エヴァンゲリオン』を摂取し、自らの創造性を磨いていった。

 芥見氏自身、「庵野秀明監督をとても尊敬しています。『新世紀エヴァンゲリオン(TVシリーズ)』での、設定や世界観を過度に説明しすぎず、視聴者に想像の余地を残すところ、あくまで構成はエンタメに寄せるところなどは影響受けまくりです」と語っている。

 その言葉通り、『呪術廻戦』は説明を省いたり、あるいは説明自体は行うのだが、読者が脳味噌をフル回転させて読解しないとついてこられないといったアプローチを行ったりと、『エヴァンゲリオン』から得た“教え”を忠実に生かしている。

 芥見氏は、「『エヴァ』がゴリゴリの神話的系ならば、自分が違うアプローチで挑むとしたら仏教の方だろうなと考えた」とも。自身の根底に『エヴァンゲリオン』があるからこそ、『呪術廻戦』の下地が出来上がっていったのだ。

 また、作中には本作へのリスペクトを感じさせる巨大ロボバトルも登場し、前日譚である『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』の時点から、秘密結社ゼーレにオマージュを捧げたシーンが描かれる。

 こちらの主人公である乙骨憂太が絞り出す「誰かと関わりたい 誰かに必要とされて生きてていいって自信が欲しいんだ」というセリフも、『エヴァンゲリオン』のシンジを彷彿させる節がある。

 もちろん『呪術廻戦』はオリジナリティにあふれた魅力的な漫画ではあるが、いま述べたように『エヴァンゲリオン』や『BLEACH』、その他多数の芥見氏が取り込んできた作品のDNAを読者が感じるからこそ、より入り込んで読むことができる、というのも人気の要因のひとつであろう。

 ちなみに『呪術廻戦』TVアニメ版のおまけコーナー「じゅじゅさんぽ」では、『エヴァンゲリオン』の予告映像風のパロディ映像も登場。『エヴァンゲリオン』はもはや、後進にとってゼーレのシナリオ的な、高次元の存在といえるかもしれない。

 純粋無垢に『エヴァンゲリオン』に憧れ、敬愛を隠さない“ファン”である芥見氏が創り上げた『呪術廻戦』が社会現象化し、多くの若者たちの心をつかんでいるという現状は、実に感慨深い。

 余談だが、3月29日に発売された週刊少年ジャンプ2021年17号の巻末コメントで、人気漫画『僕のヒーローアカデミア』の作者・堀越耕平氏は「芥見さんとエヴァ終わらせてきました。一人だったら危なかった。二人って凄いね」と語っている。『エヴァンゲリオン』は、今をときめく多くのトップクリエイターのオリジンなのだ。

 『エヴァンゲリオン』は終わるが、子供達(チルドレン)の活躍は終わらない――。ありがとう。さようなら。そして、おめでとう。

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『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』

https://www.evangelion.co.jp/

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、Fan's Voice、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

2021.08.14(土)
文=SYO(協力:桜見諒一)