さくっと一杯。そして牛鍋が生まれた、あの老舗へ

16:00

 異国文化の玄関口として、西洋を受け入れてきた横浜は、アイスクリームやビールといった輸入ものだけでなく、【モダン編】でご紹介したホテルニューグランドのナポリタンやシーフードドリアなど、この地で誕生したグルメも数多くあります。

 1889年には、旧グランドホテルのルイス支配人によって、日本初のオリジナルカクテルが考案されました。それがシェリーとベルモンテベースの「バンブー」。ほかにも「チェリーブロッサム」「ジャック・ター」「ヨコハマ」など、世界的に親しまれているスタンダード・カクテルが“ヨコハマ”で生まれています。

 そんな日本のバー文化発祥の地、横浜には、今も個性豊かなバーが存在します。今回は馬車道にあるフルーツカクテルの老舗「ザ・バー・カサブランカ」へ。飲むには少し早いと思われそうな夕刻ですが、じつはこの時間帯が穴場で、バーに寄ってから食事へ行くスタイルが増えているのだとか。

 雑居ビルの階段を地下へと降り、本棚を模した扉を開けば、そこはもう喧騒のとどかない異空間。座り心地のよい椅子に身を落ち着ければ、緊張がすっとほぐれます。

 「ザ・バー・カサブランカ」では、定番のカクテルやシングルモルトはもちろん、旬のフルーツを取り入れたオリジナルカクテルが人気。夏にはパッションフルーツやスイカ、国産マンゴー、白桃、シャインマスカットなどのフルーツが10〜15種ほど用意され、それぞれ数種類のカクテルに仕立ててくれるそう。

 カクテルの味をあれこれ想像していると、お通し代わりのスープが目の前に。空腹時でも食後でもゲストの胃腸をいたわりたい、というオーナーバーテンダーの山本さんの心遣いです。カクテルのセレクトに迷ったら、国際的なカクテルコンペティションで優勝経験がある山本さんに、好みや気分を伝えて尋ねてみるのもよいでしょう。

 素材そのものの味わいがおいしさを左右するフルーツのカクテル。見た目だけでは食べ頃かどうかわからないため、素材選びと熟成度の管理が大切だと山本さん。品種によっては全国の産地から取り寄せたり、信頼する青果店から仕入れたり、鎌倉の市場で見つけたり……。そのこだわりを惜しみなく注いだフレッシュカクテルは、旬のフルーツの瑞々しさが身体中に染み渡るようです。

ザ・バー・カサブランカ

電話番号 045-681-5723
営業時間 短縮期間中16:00~20:00(酒類の提供は19:00まで)
※営業時間は状況に応じて変更することがあります
定休日 不定休
http://casablanca.yokohama/

17:00

 食前のアペリティフに酔いしれた後は、日の出町方面へ移動します。文明開化によって生まれた牛鍋。その元祖といわれるのが明治元年創業の「太田なわのれん」です。

 「太田なわのれん」の牛鍋の大きな特長は、お肉がサイコロ状のぶつ切りであること、味つけに味噌ダレを用いていること、具材が牛肉と長ねぎだけとシンプルであること。

 なかでもこの店の個性が際立っているのが、江戸甘味噌をベースにした味噌ダレです。米麹の割合が多い江戸甘味噌にスパイスなどを加え、よく練って一晩寝かせ、甘みやコク、テリを出すように仕上げているそうです。

 創業当時は野菜や卵が貴重品で、逆に牛肉はさほど高価ではなかったため、外国人向けというよりは庶民のためのものだったそう。また、牛肉が分厚いサイコロ状になった理由もユニーク。創業者である高橋音吉さんが大のお酒好きで、お酒を飲みながら牛肉を薄く切るのは面倒だということから、現在の厚さになったといわれているのです。かえってこれが好評で、肉の臭みを消すために味噌とネギを用い、特製の底の浅い鉄鍋を七輪にかけて煮込むというスタイルを守り続けています。

 ステーキでもいただけるというぶつ切りの牛肉を頬張れば、口のなかでやわらかくほどけ、肉汁がじゅわっと広がります。上質な脂と味噌ダレの絶妙なバランスは、まさに他店では真似のできない味。〆には牛肉の旨みが溶け出した味噌ダレをごはんの上にのせていただくのもおすすめです。

 のれん分けはせず、どこにも出店せず、この地だけで代々受け継がれてきた名物のぶつ切り牛鍋は、秘伝の味噌が継ぎ足され今年153年になるそう。ハレの日に足を運んで味わうにふさわしい横浜の名店です。

牛鍋元祖 太田なわのれん

電話番号 045-261-0636 ※要予約
営業時間 短縮期間中
土・日・祝 12:00~15:00、17:00~20:00
平日    17:00~20:00
※営業時間は状況に応じて変更することがあります
定休日 月曜日・第1・3日曜日(12月・1月は営業)
https://www.ohtanawanoren.jp/

 横浜の歴史と伝統の味をたどる今回の「5 hours Trip」は、いかがでしたでしょうか。まだまだ紹介しきれないスポットもありますが、それも横浜の魅力。それはまたの機会にお届けします!