爆竹、アナフィラキシー・ショック…人間VSウサギの熾烈な戦い
そうしたグラック監督の想いが昇華しているのが、トーマスが庭に侵入したピーターたちを駆逐しようとするシーン。
次々と爆薬(大きめの爆竹のように見えるが、しっかりダイナマイトと書かれている)の導火線に火を付け、躊躇なくピーターめがけて投げ込んでくるトーマス。爆音と共に立ち昇る、炎と煙。吹き飛ぶ、レタス、ラディッシュ(二十日大根)、チコリー(キクニガナ)、トマト。バラバラと降ってくる土と砂。爆風に煽られながらも、庭を逃げ回るピーター。これでとどめとばかかりに、トーマスは爆薬を、ピーターはトマトをジャンプしながら投げ合う。
鈍くて重い、爆弾の炸裂音。あちこちでくすぶっている硝煙。爆炎と爆風をモロに受けてねじれまくる、ピーターの体。トーマスのシャツは、ピーターたちからの“トマト砲弾”を受けて赤い血のようなシミがベッタリと付いている。もはや戦場だが、その場所は庭を使ったほのぼのとした家庭菜園である。
また、カメラの位置をピーターらウサギの視点に近づけるように低く据えたことで、どこからともなく爆弾が放り投げられる恐怖の臨場感、ただでさえデカいうえにブチギレているトーマスの恐ろしさを増幅させている。そして、ここぞというところで効かせるスローモーションが、観る者のテンションをアゲまくる。
この戦いの直前にも、トーマスがブラックベリーに対してアレルギーのあることを知ったピーターたちがブラックベリーをパチンコで飛ばして彼の口へ投入。アナフィラキシー・ショックを起こし、チアノーゼになって意識を失う寸前でトーマスがアドレナリン自己注射薬を太腿に射って一命を取り留めるという、なかなかパンチの効いたシーンもある。
大胆に改変後も、原作への敬意がにじむ3つのポイント
アクション・シークエンスだけを抜き出すと、もはや『ピーターラビット』と名乗ってはいけない作品のような気がしないでもない。しかし、原作への敬意があちらこちらに詰め込まれているのも、また確かなのだ。
2021.07.06(火)
文=平田 裕介