変化③ 残酷性やパロディなど、表現にも多様性が

 今回挙げたのはほんの一例だが、「少年漫画」という枠を枷(かせ)としてみるのではなく、その範囲でどう工夫するのか、或いはどう超えていくかに挑む作品が続々と生まれてきたのは、漫画ファンからすると喜ばしいことではないだろうか。

 たとえば少年漫画における「残虐性」は、かねてより議論されてきたテーマであり、少年誌でどこまで残虐な描写が許されるのかは難しいところ。映画であれば「PG12」「R15+」「R18+」等の区分はあるが、漫画においてエロ要素以外はなかなか線引きが困難な部分も多い。とはいえ、こと表現の自由度においては、『呪術廻戦』などが攻めた描写に果敢に挑むことによって、後続の作品はより創作で冒険できるようになるだろう。

 未コミックス化の内容のため詳細は伏せるが、人の顔に刃物を突き立て、斬り上げる描写など、「ここまでやっても大丈夫」の上限を、『呪術廻戦』は更新してきた。『鬼滅の刃』においても、痛みから目を背けない表現を重要視しているし、『BEASTARS』は“動物”というフィルターを通して緩和しつつ、内容は極めて攻めている。『ONE PIECE』でも、種族差別や奴隷制度のえぐみを物語に入れ込んでおり、そもそも『ジョジョの奇妙な冒険』の初期などは、グロテスクな描写も目立つ。冒頭の話に戻るようだが、ただただその時代の漫画家たちが懸命に描いてきたものが、限界を突破してきたのだ。

 ギャグ描写にしたって、既存作品をどこまでパロディ化してよいかは『銀魂』の功績が大きいだろうし、現在連載中の『僕とロボコ』の魅力のひとつである“ジャンプ作品パロ”が歓迎の方向にあるのも、“流れ”の中にあるものといえるだろう。

 ちなみに、魔女っ娘コメディ『ウィッチウォッチ』にもジャンプ作品パロが登場するが、作者の篠原健太氏は、『SKET DANCE』で誌面を、『彼方のアストラ』でWEBを経験し、本作で再び誌面に帰ってきた人物。その彼が最新の挑戦としてパロディ要素を盛り込んできたことは、今現在の漫画のトレンドを考えていくうえで非常に重要な事象といえる。

 ほかにも、不良漫画にタイムリープ要素をミックスさせた和久井健氏の『東京リベンジャーズ』は、不良たちのブロマンスだけでなく、恋愛感情に近い複雑な想いもしっかりと描写。男性同士のキスシーンもあり(ここには非常に切ないドラマが内包されている)、従来の不良漫画に、よりフラットな目線を持ち込んだ印象だ。

 余談だが、全国出版協会・出版科学研究所が発表したデータによると、2020年の紙・電子書籍を合わせた国内コミック市場の推定販売金額は、なんと過去最高(1978年~)の6126億円。これまでの最高額だった5864億円(1995年)を大幅に超えた。国内において、漫画というコンテンツがかつてないほどに覚醒しているのだ。ならばこそ、各作品の表現も、より深化していくもの。今後、どのような「これまでにない」少年漫画が生まれてくるのか、楽しみが尽きない。

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SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、Fan's Voice、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

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2021.07.03(土)
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