防空壕をそのまま生かして作られた珍しい商店街“とんねる横丁”

 そしてノスタルジックといえば、佐世保の台所として大正期から親しまれている戸尾市場街という商店街。

 魚や肉、青果、衣料などの店が並ぶ市場街に、“とんねる横丁”と呼ばれる一画があります。

 とんねる横丁は、戦時中の防空壕を生かし、商店やバーとして今も使われている商店街です。

 そのひとつ、本田蒲鉾店は手作りのかまぼこやさつま揚げなどを扱うお店。3代目の本田容子さんにお話をうかがいました。

 防空壕が不要となった終戦時、「何か使い道あったら、使って良かですよ」と言われた先々代。

 当時、別の場所でかまぼこを作り、今の店舗で販売していたけれど、「わざわざ運ぶより、ここば少し掘って工場にしようか。したら、湯気のアツアツのかまぼこや、ここで揚げた天ぷら(さつま揚げ)をそのまま売れる。その方がお客さんも喜ぶじゃろうが」。それが本田蒲鉾店のはじまりだったそう。

 コンクリートのトンネルが、入口からおよそ20メートル。細長いスペースに、おいしい揚げ物を生み出す機械が並んでいます。

 防空壕だった頃は、こうした6~16メートルのトンネルが8本、アリの巣のように走り、本田さんいわく、向こうからも、こっちからも人々が逃げ込んだそう。

 本田蒲鉾店の工場となっているトンネルは、市場街の角を曲がったところにある「四軒目食堂」とかつては繋がっていたとか。

 今は壁で閉ざされているけれど、「昔は四軒目食堂が朝早くから食堂をしよらしたけんさ、味噌汁や魚の焼いた匂いが漂ってきよったとですよ」。

 本田蒲鉾店の作り立てのヤサイ天をいただくと、ギュッと詰まった魚の旨みと具材の野菜の食感が絶妙。腹持ちも良さそうだけれど、その美味しさに、つい、もう1個と手を伸ばしてしまいます。

 この旨さ、きっと新鮮かつ豊富な魚にあり、です。

2021.06.19(土)
文・撮影=古関千恵子