ちょうどその時期、教育の現場では、「アクティブラーニング」の重要性が叫ばれ始めていました。「先生が一方的に教えて、子どもたちが受け身で聞く」のではなく、「子どもたち自身が主体的に考え、対話を通して学びを深める」という新しい授業のスタイルです。

 当然、学校放送番組でも、子どもたちが対話や議論のできる内容を求められるようになりました。では、どんな番組を作れば議論が盛り上がるのか。それを考えるヒントになったのが、三谷幸喜さんの『12人の優しい日本人』(1991年)という映画でした。

 

15分で一話完結のドラマを作るため昔話のストーリーをそのまま事件化

――「もし日本に陪審制があったら」という架空の設定で、陪審員に選ばれた一般市民が、ある殺人事件の真相をめぐって議論をしていく内容の作品でしたよね。

平井 陪審員たちの丁々発止のやり取りがほんとに面白くて、学生時代から何度も観ていました。「同じような議論を、子どもたちが教室で出来たら楽しいだろうなぁ」と思ったのが、「判決の出ない法廷ドラマ」を作るきっかけになりました。その5年前に日本で裁判員制度が始まったというタイミングもよかったと思います。

――では、昔話をモチーフにしたのは、どういう経緯だったのでしょうか?

平井 「被告人の〇〇さんは、コレコレこういう境遇にあったので、××な罪を犯し~」というふうに、イチから事件を組み立てても子どもたちは感情移入しにくいし、何より15分という短い放送時間の中で説明するのは難しい。しかも、作り方によっては“裁判員制度の啓蒙ビデオ”みたいな感じになってしまいます。

 そうではないエンタメ作品を作るにはどうすればいいか考えたとき、思いついたのが、「昔話をモチーフに使う」ということでした。そうすれば、昔話のストーリーそのものが事件の概要になるのでイチから事情を説明しなくてもいいし、子どもだけじゃなく幅広い世代の人に馴染み深いのではないかと。

2021.05.22(土)
文=A4studio