何よりも、昔話の主人公を裁くことで、観ている人の価値観が逆転して、ちょっとしたダイナミズムみたいなものが生まれるんじゃないかと思いました。そうした経緯で出来上がっていったのが、『昔話法廷』でした。

悪とされている人たちの声にも耳を傾ける

――『昔話法廷』全11本の多くが、原作では“正義”とされている人物が被告人として裁かれる話です。その点も含めて、番組のねらいを教えてください。

平井 自分のなかで大事にしているポイントは、「正義を裁く」ということではなく、「もう一方の悪とされている人たちの声にも耳を傾ける」ということです。そして番組の中で、判決は出ません。番組を観た子どもたちが自分なりの判決を考え、友達や家族と議論します。その過程で、子どもたちに、多角的に考えること、様々な立場の人に思いを馳せることの大切さに気付いてもらうのが、番組のねらいです。

――番組は、学校のどんな授業で使われているのでしょうか?

平井 使われ方は様々です。小学校、中学校、高校では、公民や道徳、国語のディスカッションの授業だったり、総合的学習の時間であったり。大学だと、法学の授業で使用されています。

 

昔話のふとした疑問を膨らませて得た発想を、裁判の争点に利用

――毎回、お話はどのようにして作っているのですか?

平井 昔話を何度も読み返して、そこで浮かんでくる疑問みたいなものを、話を作る取っ掛かりにしてきました。例えば「三匹のこぶた」だと、「なんでこぶたは狼の体がすっぽり入るほどの大きな鍋を持っていたのかな?」という疑問が、「もしかしたら、計画的な殺人だったのかもしれない」という妄想につながりました。

――「浦島太郎」では「乙姫のお腹には浦島太郎との子どもがいた」という設定を付け足すことで、議論がかなり広がっていました。

平井 「浦島太郎」の場合は、若い男女が2人きりで3年間一緒にいたわけですから、深い関係にあったんじゃないか? と考えました。だとすると、乙姫が危険な玉手箱を渡したのは、「痴情のもつれ」からだった? 乙姫が浦島太郎を許せなかったのは、なぜ?そんな妄想を重ねて、設定ができあがりました。

2021.05.22(土)
文=A4studio