③重厚な文学の世界へディグイン

 文学作品の醍醐味とはすなわち人のありようなんじゃないかと思います。難しい文章表現とかは置いておいて、その文章から浮かんでくる人、情景との邂逅。価値観が違う世界や個性豊かな人と会った時の新鮮な感動、それを体験するために小説を読んでいるような気がします。

 本書に「世界文学を読む旅とは結局のところ、日本語の中に生きる、自分自身へと至る過程なのだろう」とあるように、外の世界へ出ていくことは自分のより深いところへダイブすること。もちろん、日本文学でもその経験はできますが、日本という世界も広い世界のまた一部。時に日本の外へ出かけることは日本、そして自分への深い理解に繋がります。

 ここに挙げられた30冊は世界の現実であり可能性。刺激的な読書の歓びに満ちた世界文学ワールドに触れたらコロナ禍なんて気づいたら終わっているかもしれませんよ。

『21世紀の世界文学30冊を読む』

都甲幸治
新潮社2,200円

④時代を彩った食べ物の世界へディグイン

「ファッションとして消費されるようになった流行の、特に外来の食べ物を、節操なく新しいものを求めてきた日本文化への皮肉と愛をこめて『ファッションフード』と名付けようと思う」とは本書の前書きにある一文です。

「あれ、食べた?」「あの店行った?」そんな食体験の共有に一喜一憂した経験が読者の皆さんにもあるのではないでしょうか。イタめし、ティラミス、モツ鍋、チューハイ……、近年ではタピオカブームが記憶に新しいところ。そんな浮かんでは消えるグルメブームとはいったいなんだったのか。いつから「食」の体験を語ることが一般的な共通言語になったのか。実際に現場で観察し、体験してきた料理編集者である著者がまとめた1冊は壮大な文化史と呼んで差支えない読み応えです。

 2012年刊行の本なので、少し前までの内容になりますが、あったあった、と膝を打つこと間違いなし。言わずと知れたグルメ漫画『美味しんぼ』と合わせて読めば日本の食をコンプリート出来るかも?

『ファッションフード、あります。 はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』

畑中三応子著
紀伊國屋書店2,640円

⑤めくるめく雑誌の世界へディグイン

 最後は我々雑誌の世界へご招待。

 雑誌はそもそもの出発点を振り返るとジャンルや形式に縛られることなく「読者にも編集者に気兼ねなく、自由な心持ちで作るもの」(菊池寛)でした。それが拡大し、歴史が積み重なっていき、今では成熟した媒体となってしまっています。“〇〇らしさ”と良い意味でも悪い意味でも付きあわなくてはいけない時代。それはそれで雑誌の醍醐味ですが、その一方でZINEという雑誌の出版形式がインディペントから発生し、注目を浴びてきたのも、原初的な雑誌の面白さを多くの人が求めているからのような気がします。

 この2冊で紹介されているのは、今読むと荒く感じるかもしれないですが、個性と自由さに満ち溢れた雑誌とZINEの数々。この2冊を眺めるだけで、沢山の人たちの「伝えたかったこと」を垣間見ることができ、気持ちがスカッとします。

 もちろん、今現在もエネルギーに満ち溢れた雑誌は続々刊行中! 昔の雑誌でも今の雑誌でも“面白さの坩堝”である雑誌の世界へ是非飛び込んでみてください!

『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』

赤田祐一/ばるぼら著
誠文堂新光社2,750円

『日本のZINEについて知ってることすべて 同人誌、ミニコミ、リトルプレス―自主制作出版史1960~2010年代』

ばるぼら/野中モモ著
誠文堂新光社2,860円

Column

週末何しよう? 過ごし方5選

興味あることは沢山あるけど、「To Do List」じゃ重すぎる、スローなウィークエンドにしてほしい。そんなあなたのために、ゆるーい週末の過ごし方ガイドをCREA編集部が5つピックアップしてみました。

もちろん、今週末は部屋でゆっくり寝て過ごしちゃう、なんてのもOK。だって、週末はまた来週もやってくるんだから。

2021.05.13(木)
文=CREA編集部
写真=平松市聖