ここでローズはついに自分で“飛ぶ”。凍えた体に鞭打ってドアを降り海に入って、死体が持っていた呼子を吹き、ボートを呼び戻すローズ。生きるために自ら選択し行動すること。海に沈んでいくジャックにローズが呼びかけた「あなたを忘れない」という言葉は、単なる「初恋の永遠性」ではなく、「あなたが教えてくれた“私は飛べる”ということを私は忘れない」ということでもあるのだ。

ジョバンニとカンパネルラの「どこまでもどこまでも一緒に」

 一方、『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラの別れは突然にやってくる。

 家庭教師と姉弟も銀河鉄道を降り、再び2人きりになるジョバンニとカンパネルラ。だが、原作では、ジョバンニが「どこまでもどこまでも一緒に行こう。」と話しかけた瞬間、既にカンパネルラの姿は消えている。映画では、カンパネルラは客車から歩み去り、ジョバンニはその後姿を追いかけても追いつくことができない。

 そこでジョバンニは目を覚ます。丘を降りていくとジョバンニは、カンパネルラが級友を救うために川に落ちたことを知らされる。

 映画はここでジョバンニの「ああ、僕はカンパネルラがあの銀河のはずれにいることを知っている。僕はカンパネルラと一緒に歩いてきたんだ」という台詞を加えている。この時画面は、川面から橋ごしに天の川を見上げる映像を通じて、地上の川と天の川が繋がっていることを示す。

 その後、原作ではまだいなくなる前のカンパネルラに語りかけた内容が、「僕はもう、あのサソリのように、ほんとうにみんなの幸せのためなら、僕のからだなんか百ぺん焼いてもかまわない。カンパネルラ、どこまでもどこまでも一緒に行くよ」と少し改めてモノローグで語られることになる。

 

 原作は、ジョバンニが「どこまでもどこまでも一緒に行こう。」と呼びかけた後、カンパネルラが「あすこがほんとうの天上なんだ」と車窓の外を指差すが、ジョバンニにはそこが「ぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。」というふうに見えている。この断絶のまま原作は物語の終幕へと入っていく。

2021.05.14(金)
文=藤津亮太