私が子どもを育てるのも、20代を母の介護に明け暮れたのも、愛犬のお世話をしたのも、夫とコミュニケーションをとるのも「生きていて欲しいという願い」からだ。そして私自身他者に「生きていて欲しい」と願われたいのだ。私はふと孤独を感じると夫にぎゅっと抱きついて首の匂いを嗅ぐ。これは私が子どもの頃母にしていたことと全く同じ。夫がそれを当たり前のこととして受け入れてくれることで「生きていいのだな」と思える。以前「私は今母だけど、私にも母が欲しい!」と思ったことがある。母はいるけれどこう思ったのは、私が欲しているのはマザリングだったんだろう。この概念を共有してくれた中村氏に心からお礼を言いたい。

なかむらゆうこ/1977年、東京都生まれ。映像作家。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。哲学書房での編集者を経て、2005年よりテレビマンユニオンに参加。映画作品に『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』など。本書が初の著書となる。
 

いぬやまかみこ/1981年、大阪府生まれ。エッセイスト。近著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』。

2021.04.07(水)
文=犬山紙子