オープン当日の売り上げは、8時間で1杯だけ
そして、店は4月21日にオープン。初日の客は1人で、売り上げは1杯の390円だった。その日の店番は清水さんで、「犬の散歩をしていた40代ぐらいの男性でした。『何してんの?』と言われ、『今日、オープンしました』『えっ、今日かいな。じゃあ1つ』って感じで。結局、営業8時間で1杯だけでしたが、最初に買っていただいた時の喜びは一生忘れられません」と振り返る。
人通りが少ない日々は続いたが、次第に近隣の住民らが来店するようになった。店前を犬の散歩コースにする人たちは、京都御苑の苑内で休憩するのが定番。誰かが「サンキューバナナ」を手にしていると、「それは?」と聞かれ、「最近、近くでできた店で売っている」「ちょっと、クセになる味」などの会話がされるようになった。状況を察した清水さんは、犬を連れた来客者の特徴と犬の名前をメモ。リピート客に気づくと犬に向かって「〇〇ちゃ~ん」と声を掛けた。そうした触れ合いもあり、「サンキューバナナ」のファンは増。「クセになる味やな」と言って、毎日来店する生花店勤務の男性、「お客さんが来たから、このお盆に4つ置いて」と注文する高齢女性、ステイホームに飽きた小学生…と客層も幅広くなっていった。
SNSで話題となり“行列ができる店”に変貌
その流れの中、磯石さんは、プレスリリースを作成し、SNS戦略を展開。すると、しゃれた商品ロゴのデザイン、パッケージが瞬く間に話題になり、ゴールデンウィーク(GW)に入った同月末には、行列ができる店に変貌した。ステイホームのはずが、大阪、神戸などからも客が訪れるようになった。結果、2人だけでは対応できず、阪本さんも合流。しかし、あるのは家庭用のミキサーと冷蔵庫、バナナも「1日 40杯程度」の分量しかなかった。磯石さんは「すぐに売り切れになって、追加で材料を買いに行く感じで、申し訳ない思いでした。GW期間中にミキサーが5台つぶれたので、1台14万円の業務用に買い替えました」と明かす。
2021.04.06(火)
文=「文春オンライン」編集部