登のギャップが可笑しくて、ユーモラスに演じました
登は、町医者をしている叔父の玄庵(古谷一行)を頼って江戸に出てくるのですが、居候先のシーンでは、ホームドラマのような雰囲気があるのも楽しかったですね。叔父は怠け者で頼りなく、叔母(宮崎美子)には家の雑用を押し付けられ、娘のおちえ(平祐奈)には呼び捨てにされる。外でこんなに活躍している登が、家の中ではこき使われ、情けない扱いを受けているというギャップが可笑しくて、ここはユーモラスに演じました。古谷一行さんがどうしようもない叔父をチャーミングに演じてくださいましたし、宮崎美子さんも、もともとが温かい雰囲気の方なので、口うるさい叔母を演じてもどこかほっとさせてくれる。そのお陰で、個性的な親戚に振り回される登を、楽しみながら演じることができました。
それに、頼られると断れない登の性分は、外でも家の中でも共通していますよね(笑)。そんな純粋なところも、登の良さなのかもしれません。
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――溝端は、2006年に、多くの俳優やモデルを輩出してきた「JUNONスーパーボーイコンテスト」でグランプリを受賞して芸能界入り。ドラマ『生徒諸君!』『BOSS』、映画「麒麟の翼~劇場版・新参者~」「高校デビュー」などに出演し、2015年秋には蜷川幸雄の舞台「ヴェローナの二紳士」に主演するなど、俳優としてキャリアを積んできた。一方で、トーク番組『誰だって波瀾爆笑』では司会を務めるなど、マルチな活躍をみせている。
そんな彼が初めて挑んだ時代劇では、撮影所の独特な雰囲気や、殺陣の撮影など、新しく体験することばかりだったと語る。
脚本を読んで「ちょっと困ったな」と思った
最初にこの作品の脚本を読んだとき、実は、「ちょっと困ったな」と思ったんです。というのも、登という主人公はとても好青年で、半ば押し付けられるようにしてやっている獄医という仕事も真摯に務めているし、コンプレックスのようなものがない。こういう人物は内面を掴みにくくて、演じにくいんです。
僕の場合、原作がある作品を演じるときは、まず脚本を読んで、それから原作を読み、また脚本に戻ることが多いのですが、原作を読んでみても、この思いは変わりませんでした。原作は登の視点から書かれているので、彼の活躍もさらっと描かれているけれど、よく考えると登は、隠された真実をつきとめ、何人もの敵を一人で倒し、事件を解決するという、すごいことをやっているわけです。こんな主人公をどうやって演じればいいのか、ずいぶん迷いました。しかも、原作でも、最後に登がどう思ったのか、その感情が吐露されることがほとんどない。心情が簡潔に描写され、切ない余韻があるだけです。最後に何か登の台詞があれば、そこから逆算して登の気持ちを追い、どんな芝居をするか考えるのですが、それができないんですね。囚人たちから頼まれたことを受けて、どう動くのか。そういう受けの芝居が多かったので、難しかったです。
2021.01.16(土)
文=オール讀物編集部