――青年医師・立花登の活躍を描いて人気を博した藤沢周平の人気連作「獄医立花登手控え」シリーズ。主人公・立花登は、新しい医学を修めたいと東北の小藩から江戸へやって来たが、憧れであった叔父・小牧玄庵は、実際は時流から取り残された医者だった。その叔父に押し付けられるようにして、小伝馬町の牢獄に詰めて囚人の病を診る「牢医者」となった登は、持ち前の心優しさと行動力で、囚人たちにまつわる様々な難事を解決していく。
1982年に『立花登 青春手控え』として中井貴一主演でドラマ化された本作。2016年には新たな立花登役に溝端淳平を迎え、として放送され話題となり、続編も制作された。そして、2021年1月9日よりNHK総合・土曜時代ドラマで「立花登青春手控え2」が放送される。放映をNHK「BS時代劇」記念して、主演の溝端さんのインタビューを再公開する。
(初出:オール讀物2017年2月号。なお、記事中の年齢、日付、肩書などは掲載時のままです)
「牢医者」という異色の設定
『立花登 青春手控え』は、映像作品で僕が初めて本格的に挑戦した時代劇でした。ずっと時代劇をやってみたいと思っていたので、お話をいただいた時は嬉しかったですね。
脚本や原作を読んで、まず、主人公が「牢医者」であるという設定がおもしろいなと思いました。武士でも商人でもなく、しかも、単に町医者ではなく牢医者も務めているという、かなり異色の設定です。
僕の演じた主人公の登は、行動力があり、頭も切れて、武器を持った相手とも素手で闘う起倒流柔術もかなりの腕前というヒーロー。一方で、ドラマのタイトルには原作にはない“青春”という言葉が入っていますから、演じるうえでは登の若さと、それゆえの葛藤も意識しました。原作ではもう少しクールで色っぽい男なのですが、ドラマでは、もがきながら、成長してゆく姿も出したつもりです。
最後に苦味が残る藤沢周平作品
祖母が時代劇ファンだったので、子どもの頃はよく一緒に時代劇を観ていました。『暴れん坊将軍』『水戸黄門』『銭形平次』『遠山の金さん』など、どれも大好きですが、時代劇というのはスカッとするような、勧善懲悪の話が多いですよね。でも、この作品で登が手助けする相手は、獄中の囚人です。牢から出られない囚人のために登が行動することによって、囚人や、その家族の心を少し軽くしてあげることはできても、それによって彼らの罪が軽くなるわけではありません。最終的には島流しになったり、処刑されたりして、物語が完全にハッピーエンドで終るというわけにはいかない。だから毎回、登の中に「これでよかったのだろうか」という煮え切らないような、切ない思いが残り、「自分にはもっと何かできたんじゃないか」と悩んでしまう。最後に苦味が残り、その苦味がまた堪らなく癖になる感じが、この作品の独特のおもしろさだと思います。
2021.01.16(土)
文=オール讀物編集部