読後に残るのは1枚の画
印象を求め、いつかあの島へ

#04
『島とクジラと女をめぐる断片』

【あらすじ】
 ポルトガルの西方にあるアソーレス諸島の滅びゆくクジラ漁や、島に暮らす美しい女性の記憶を語る短編、難破をめぐる話など、島々の一見無関係にみえるエピソードの断片を、深いところで編み上げていく小品集。


 短編集としてみることもできますが、エッセイでも旅行記でもなく、まさに断片。詩的で象徴性の強い断片を集めるような手法で作られています。これは記憶なのか虚構なのか。前書きで幻想を育むといったことを、タブッキ自身が語っていますが、全くの虚構でもない。そういった意味では、実は幻想かもと思わせる『島暮らしの記録』と真逆ですね。こちらは幻想ベースで、でも、本当のことなのかもと思わせてくれる。対比すると面白いです。

 舞台は、捕鯨地として知られていた、大西洋のはるか遠くに浮かんでいる島なので、荒涼とした土地の雰囲気が感じられます。タブッキって、あくまで外部の視点というか、盗み聞きを含む聞き手っぽい(笑)。現地の人から聞いたことだけでなく、実際に男女の会話を耳にして、それを膨らまして物語にする。けっこう具体的な短編に落とし込んで、この土地の色をしっかりスケッチしているような気がしますね。

 読後は読み手に一枚の絵画のような印象を残します。説明が難しいのですが、イメージがすごく強い。もちろん、まとまった断片もあるんですけど、この本自体が1枚の絵画みたいな、そういった残像が。やっぱり土地柄もあるのだと思います。アソーレスでなければありえない。

 アソーレスは今一番行きたいところ。それこそ、海辺でぼんやりできたらそれでいい。いつかこの本を持って行きたいですね。観光するところではないのでしょうけど、クジラと海があって荒涼としている、そのイメージを楽しむだけでもいい。

2021.01.09(土)
文=大嶋律子(Giraffe)