著者の好奇心を通して
異文化に触れられるエッセイ集

#03
『旅行者の朝食』

【あらすじ】
 ロシアで出合ったヘンテコな缶詰から幻のトルコ蜜飴まで美味珍味満載。食べ物を巡るエッセイなのに、その食べ物の名前の由来を調べるうちに、博覧強記な言語の世界へと読者を誘っていく。


 実はこれ、朝食について書かれた本ではないんです。

 タイトルになっている「旅行者の朝食」というのは、肉と野菜をドロドロに煮込んだ非常にまずいロシアの缶詰のネーミング(笑)。この缶詰のことを皮肉って笑うロシア人のお話が収録されているのですが、その一編が特に好きなんですよね。

 人がどんなことで笑うかって、パーソナルなことですが、その土地の文化もあって、なかなか知りえないことでもありますよね。この本は、それをうまくクローズアップして見せてくれるんです。

 米原さんは、ロシア人よりもロシア語がうまいと言われていた同時通訳者で、とにかく食べることが好きな方(笑)。この本でも気になる食べ物に対する、恐ろしいまでの執着と探究心にぐいぐい引き寄せられてしまいます。何がすごいって、めちゃめちゃ好奇心があること。彼女の好奇心を通して異文化に触れられ、行った気になり、ワクワクするんです。

 それと、米原さんの文章って勢いがよくて、気楽に楽しく読めるので、つい読み進んじゃうんですよ。で、辞書を引いたり、ネット検索をしたくなっちゃうという。ご本人もよく辞書を引用したりするんですけど、面白いこと、知らないことがいっぱいで、飽きないんです! これは五感と知的好奇心が満足できる1冊だと思います。

2021.01.09(土)
文=大嶋律子(Giraffe)