淡々とした島暮らし
自分とはかけ離れた地へ

#02
『島暮らしの記録』

【あらすじ】
 舞台は、フィンランドの孤島。トーベ・ヤンソンが、パートナーであるトゥーリッキと、母親ハムとともに過ごした一端が描かれる。そこに猫1匹と時々手伝いをしてくれるおじさんたち。登場人物はたったこれだけで、日記形式、ときに散文形式で綴られる1冊。


 両親が芸術家だったこともあり、トーベにとって「島暮らし」というのは幼い頃からの習慣で、それが下敷きになっているのだと思います。前半はほぼ日記のようで、後半はエッセイ風。でも、これが全部本当のことかというと、そうともいえない。

 旅心がある本というより、旅をしたくなる、自分とは全くかけ離れた場所で違う生活に思いを馳せることができる本ですね。まず舞台が島であるところから非日常! 私自身、旅先に島を選ぶことが多いからか、海への憧れもありますし、船も勇ましくて好きなんです。

 海は季節や時間、天候によって全然色が違って、すごく表情を変えるもの。起伏に富んだ島ならではの見晴らしだったりとか、そういったところにも惹かれます。

 この本は実にシンプル。文章に過不足がないんです。記録風ならではの温もりや静寂があって、ひとつひとつの描写が的確で美しい。淡々と小屋を作ったり、せっかく作った橋が雨に流されたり、ボートで海に出たり。何か起こるかといったら、大して何も起こらないのですが、読後は「いい本だな」としみじみ思う。

 島の暮らしって、足りないものは足りない。それを自然に受け入れるような懐の深さがあって、大げさではなく、そこでの暮らし、出来事を楽しむ。そんな淡々とした感じが、彼女の描写と島という背景とマッチしているんだと思います。

 自分にとって大事なものを見つめなおした、コロナ禍の気分とも合っているような気がします。読むと、旅に出たいなと思いますね。

2021.01.09(土)
文=大嶋律子(Giraffe)