泥棒はお気に入りのモチーフ

 ちなみに、深緑さんの代表作のひとつ『ベルリンは晴れているか』にも、ユダヤ人のカフカという、チャラい泥棒というキャラクターが登場する。

「あ、そうですね。泥棒や盗賊ってちょっとお気に入りのモチーフかも(笑)。ミヒャエル・エンデの『モモ』が好きなんです。時間泥棒という概念も、盗まれた時間を取り返す少女というのも魅力的。

 あと、ちょっと法を逸脱しちゃった人と頑ななほど遵法精神の人とか、ちゃらちゃらした人と真面目な人とか、アンバランスなコンビは見ていて楽しいですよね。主人公と泥棒と組ませると、それが顕著になる気がします」

 物語の中では、そもそも御倉館は、読長町に住む人が入って蔵書に触れられる街の名所だったのだが、稀覯本が一度に二百冊盗まれる事件が起き、たまきが激高し、閉鎖された経緯が説明されている。

「私も書店員をやっていた時期があるので、本を盗むとか万引きとかには苦労させられて、実際捕まえた後も徒労感を味わった覚えがあります。

 ただ、物語の中では罪と罰の在り処というか、そういうのも含めて考えました。とはいえ書店員さんからの感想では、万引き犯に対する怒りにたくさん共感いただきました。」

 舞台となる読長町は、いまや書物の町として有名という設定で、そんな街の描写を読むのもわくわくする。

「連載の前に、東京の雑司が谷と谷中を取材したんです。つるバラが生えている〈BOOKSミステリィ〉という古書店の曲がり角は、雑司が谷に本当にあった曲がり角を思い出しながら書きました。

 生活描写を書くのがもともと好きなので、せっかくなら、みんながちょっと住んでみたくなる街にできるといいなと。あと、記憶の中の商店街やうちの近所のお店もちょっとミックスさせています」

主人公たちと一緒にハラハラしながら読んで欲しい

 本書は、本泥棒やブックカースをめぐり、深緑さんの想像の翼が大きく羽ばたいた面白さに満ちている。あまりプロットは詰めず、作家としての運動神経や直感で伸び伸びと書いたそう。

「私はおっちょこちょいなタイプで、いろいろな人に助けてもらっています。深冬にも似たところがあるけれど、私よりよほどしっかりしているなと(笑)。それでもときどき深冬がやらかしているズッコケは、私の素が出ている場面。読者にも深冬と一緒にハラハラする感じを味わってもらい、まるごと楽しんでもらえたらうれしいです」

『この本を盗む者は』

深緑野分
KADOKAWA 1,500円
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高校生の深冬の曽祖父は書物の蒐集家であり、父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日蔵書が盗まれ、深冬は「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」というメッセージを目にする。読長町は本の呪いにかかり、物語の世界に変わっていってしまう。本泥棒を捕まえない限り、世界が元に戻らないと知った深冬は、様々な本の世界を冒険することに。

深緑野分(ふかみどり のわき)

1983年神奈川県生まれ。2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年に刊行した長編小説『戦場のコックたち』で本屋大賞7位。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』では第9回Twitter文学賞国内編1位、19年本屋大賞3位となった。

2020.10.31(土)
文=三浦天紗子
写真=佐藤亘
ヘアメイク=岩井裕季