息子へ「生きてることって結構幸せですよ」

 実は私はリョウコみたいな母親になりたいと思ったことがない。楽しそうに生きているなあとは思うが、自分とはタイプの違う人間だと思っているから。ただ、私も息子には等身大の自分で全て包み隠さず話してきたし、この子にこんな教育をしなきゃなんて考える余裕もなく、とにかく私が「生きてることって結構幸せですよ」と体を張って提示することが大事と思っていた。「この先何があろうが、どんなことをしてでもあんたを守るから安心しな!」という宣言をしながら「あとは任せた、適当にどうぞ」っていう感じか。とにかく「親」というより「大人」のサンプルが家にいて、それを見ていれば、生きていると起こりうる楽しさも失敗も何もかも全部分かる。どういう生き方をするのが人として楽しいのかが伝わればきっとうまくいくと思う。これも結局、リョウコから受け継いだ「何があっても最後はうまくいくはず」と思える楽天家気質のなせる技なのかもしれないが。

ヤマザキマリ/1967年東京都生まれ、北海道育ち。84年に17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの美術学校で油絵と美術史を学ぶ。97年漫画家デビュー。その後、イタリア人の比較文化研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、シカゴへ移住。現在は日本と北イタリアで暮らす。2010年に『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を、15年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。17年にイタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。著書に『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作/新潮社)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)、『男性論 ECCE HOMO』(文春新書)、『国境のない生き方』『仕事にしばられない生き方』(小学館新書)など多数。

2020.10.11(日)
文=ヤマザキマリ