退廃の美に惹かれ恋愛では 父性を求めた

岡村 何の病気だったんですか?

小林 最初は神経性の胃潰瘍。それから骨髄炎という足の骨の病気になって。で、その治療が原因で肝炎になってしまった。院内感染。

岡村 それは大変だ。

小林 ある種の死生観がそこでつくられました。だから、10代のときに惹かれた映画や音楽って、暗くて陰のあるものばっかり。ルキノ・ビスコンティの耽美的な映画とかにすごく惹かれたし。

岡村 『ベニスに死す』的な世界観ですよね。独特の色気がある。

小林 そう。滅びゆくものの美しさ。退廃の美学。そういった趣味嗜好っていまも変わらないんです。

 最近観た映画で『コールド・ウォー あの歌、2つの心』っていうポーランドの映画があるんですが、めちゃくちゃ暗い。人生の中でも1位2位を争う暗さ(笑)。でも、すごく好き。そういう系統のものがピピッと琴線に触れるんです。探知犬みたいに「あ!」って。

 だから、岡村さんの音楽もそう(笑)。送っていただいたアルバムを聴いたんですが、聴いた途端、めっちゃ好きになりました。

岡村 ホントですか!

小林 私、踊り出しちゃったもの(笑)。突然狂ったように踊り始めたから犬がビックリしちゃって。すっごくカッコ良かった。すっごくセクシー。GOOD!(笑)

岡村 それはうれしい!

小林 ジミ・ヘンドリックスとかプリンスとか、ちょっと危ない香りのする人が大好きなんです、私。MIYAVIさんとかね。若かったら私もタトゥー入れちゃうかも! ってぐらい(笑)。

岡村 ははははは(笑)。

小林 そういうタチなんです。

岡村 本によれば、そんなお父さんへの愛憎入り交じる思いが、ご自身の恋愛観をつくったのかもしれないと。やっぱり恋愛では父性を求める感じでしたか?

小林 それはあったと思う。だから結局、ファザコンですよね。

完璧に自分のものにはならない だからこそ憧れる

岡村 包容力のある人が好き?

小林 包容力……。たぶん、逆だと思うんですよ(笑)。ただ、強い人が好きというのはありました。

岡村 付き合ってきた人の傾向はだいたい似ているんですか?

小林 ハタチで主人と知り合ったので他をよく知らないんです。10代の頃は奔放でしたけど、10代の恋愛だから、同級生の子と楽しく遊んでいただけ。でもやっぱり、ちょっと陰のある人が好きだったかな。

 いちばん最初のボーイフレンドはドイツと日本のハーフ。お父さんが日本に亡命してきた人で、なんともいえない独特の暗さを纏ってた。ロックを聴くようになったのも彼の影響。男の人の影響を受けやすいんです、私(笑)。

岡村 「染まるタイプ」ですよね。

小林 染まります(笑)。

岡村 極道の奥さんになったらいい「姐さん」になれるかもって。

小林 そういうところは昔女優だったのでね(笑)。やっぱり、退廃の美学じゃないけど、ちょっと陰があったり悪かったり、ミステリアスだったり、どこかつかみきれない人に惹かれてしまう。

 だからきっと、私のことを大好きって言ってくれて、一生幸せにしてあげるよ、なんて言われたりしたら、「ああ、じゃあもういいです」ってなるのかも(笑)。

 追っても追っても完璧に自分のものにはならない、だからこそ憧れるんでしょうね。そう思う。でも、恋ってそういうものじゃないですか?

岡村 ありますよね。

小林 ね? そんな感じでしょ。簡単に振り向かれちゃうとね。

岡村 その根本は、やはりお父さんが「自分のものにはならない」存在だったからなんでしょうね。

小林 うちは本妻で、「二号さん」じゃない。でも、「パパは今度いつ来るの?」っていう感じだった。だからこそ余計に追いかけたし、好きだったんだと思う。

岡村 じゃあ、恋をすると、積極的にアタックするのではなく?

小林 待ちます。ずっと待ってる。

2020.08.16(日)
文=辛島いづみ
撮影=杉山拓也