■Q8 韓国では セロイのような寡黙で朴訥な男がモテる?
主人公のセロイは、高校中退で前科者、梨泰院で小さな飲み屋を営んではいるが、あまり裕福には見えない。“いがぐり頭”のような独特のヘアスタイルに、ダブダブのフード付きのパーカーの容姿は、 一見して、これまでの韓流ドラマの主人公とは程遠い(もちろん、パク・ソジュンは、こんな衣装でも眩しいほどのイケメンだが!)。
しかし、セロイにも韓流ドラマの主人公らしい部分がある。寡黙で朴訥だが、不正に屈しない正義感、いかなる困難にも信念を曲げない頑固さ、さらに同僚たちを最後まで守り抜く責任感などだ。
セロイは、劇中の女性たちはもちろん、視聴者の女性の心も鷲づかみにしたが、韓国では現実の世界でも、彼のようなタイプがモテるのだろうか。
家族心理学が専門のクァク・ソヒョン博士は、セロイのキャラクターについて、「韓国の伝統的な家族主義的な男性像」と分析する。
「最近の韓国の若者はインスタント的な出会いを求めている。気軽に付き合ってはサッサと別れる。つまり、相手に対して責任を負おうとしない傾向が強い。セロイからはこのような若者の姿ではなく、むしろ彼らの父世代の責任感と重みが感じられるのではないか」
現実の韓国の若い女性たちに人気のあるタイプは、セロイのように寡黙で慎重なタイプとは言いがたい。周りの女性たちに聞いても、「現実ではセロイのようなタイプは人気がない」と口を揃える。寡黙で朴訥としているより、話が面白くてユーモアがあり、空気が読めて、女性にもよく合わせてくれるソフトなタイプが好まれる。
しかし、韓流ドラマではセロイのような寡黙で慎重なタイプが決まって男性主人公だ。
「2000年代以降、経済的な困難が増している現実の中で、若い韓国人女性たちが自分たちの父親のような頼もしい男性像に憧れることは、一種のファンタジーだ」(クァク博士)
ヒョンビンが演じる「愛の不時着」のリ・ジョンヒョクであれ、「梨泰院クラス」のセロイであれ、現実では見られない男性だからこそ女性視聴者たちにとってさらに輝かしい存在なのだろう。
※こちらの記事は、2020年7月12日(日)に公開されたものです。
記事提供:文春オンライン
2020.07.24(金)
文=金 敬哲